忍玉長屋、五年ろ組。
ヘムヘムの鐘が鳴り、休み時間に突入し騒がしくなった教室。
双子だなんだと騒がれる名物コンビは窓際で眠たげに空を見上げていた。
「はあ、雷蔵私はとても退屈だよ」
「・・・どうせまたろくなことしないね、君が退屈だと」
「ん?よく分かってるねぇ」
雷蔵の言葉に嬉しそうに笑う顔は、いたずらっ子そのもの。
それを見て雷蔵は思わず眉をひそめた。
毎回いたずらするたびに間違われて顰蹙を買うのはこっちなのだ。
それでも毎回、すんなり許してしまっている・・・そろそろ本気で怒らないと駄目かな?
雷蔵の悪い癖が出始めた瞬間。
「あ、一年は組だ」
三郎が、窓の向こうで歩いていく鮮やかな水色の制服を見て呟いた。
委員会の後輩を見つけて、気付かれていないのに小さく手を振った。
授業の帰りだろうか、みんな少しくたびれた表情をしている。
「仲がいいな、とてもほほえましい」
目を細め、時折笑顔で話し合う子供たちを見る三郎を、雷蔵が横目で見た。
「三郎は、は組の子供たち好きだね」
「うん、面白い。見ていて飽きないからな」
雷蔵が呟くのに、三郎は子供たちを見つめながら笑って答えた。
「二年は好き?」
「二年?さあ、あんまりしらない」
「三年は?」
「興味ない」
「四年は?」
「キャラが濃いよな。わりと好きだよ」
「ふうん、田村三木ヱ門は?」
「火薬銃が上手いアイドルだろう、おもしろい」
「じゃあ、綾部喜八郎は?」
「落とし穴掘りまくる変わり者か、興味深いな」
「じゃあ、平滝夜叉丸は?」
「自惚れやだけど実力もあるし、これからどうなるかおもしろそう」
「じゃあ、タカ丸くんは?」
「あの人といると兵助がおもしろいし、好きだよ」
「転向してきたばかりのころは、興味ないって言ってたよね?」
「今は興味ある」
つまり、三郎にとって好きというのは興味の有る無しなのだ
「他に質問は?」
三郎が振り返る。
また、ほら、そのいたずらっ子の顔をして。
「じゃあ、五年」
「好き」
「ハチは?」
「好き。一緒にいると面白いだろ、馬鹿やってさ」
「兵助は?」
「好き。天然だし、たまにくそ真面目だけどおもしろい」
(もし、三郎が僕のことを知り尽くしてしまったら・・・
いつか三郎、君は、僕に飽きてしまうのかな)
(怖い、でも聞いたらきっとこたえてくれるよね?)
「僕、は?」
三郎は誇らしげな笑顔で言った。
「大好き。
だって雷蔵はどれだけ一緒にいても飽きない。
隣にいるだけで毎日がおもしろいくらいに輝くんだ」
いたずらっ子が口付ける。
不安なんかすべて取り除いて、愛をそそぐように。
「・・・同意見」
雷蔵が笑い返した。
(ああ、きっと、今、僕は三郎とおんなじ顔してるんだろうな)
「大好き、三郎」
(だってすごくおもしろくて、世界が輝いているもの)
***
鉢雷は雷蔵視点だとなんか書きやすい。
口調が乙女っぽくなってしまう罠・・・