「喜八郎」
そう呼ぶ声は滝夜叉丸のもの。
いつも自信満々で高飛車な態度を裏づけする努力を私はしっているよ。
毎晩のように眠る前に戦輪を磨く音、ずっと聞いていた。
心配そうに私の名前を呼んで、怒るのはいつも滝だね。
滝は、私が夕飯の時間になっても戻らなかったら、いつも心配して捜してくれるから好き。
ねえ今日の夕飯、なんだった?
私、今日は魚が食べたい気分。
「綾部」
今度は三木ヱ門だ。
滝と馬鹿みたいに喧嘩をするくせに、2人が仲がいいから少し嫉妬したこともあった。
でも三木のことも、今は好き。
火器を扱わせれば学園一だって、本当だと思うよ、まぁ言わないけど。
そういえば昨日は徹夜していたんだっけ。
あの人みたいな不気味な隈が出来てしまうのは勿体無いよ。
あ、お腹減った…。
「綾ちゃん」
あぁタカ丸さんの声もする。
私、町からきたあなたみたいな人、きっとすぐに学園を去るだろうと思っていたの。
でも、違ってよかった。
タカ丸さんが髪を結ってくれると、穴を掘っていても乱れないから好き。
もっと作法に入るように勧めればよかった、ああ、勿体無いことをした。
そうだ、まだお風呂に入っていなかったっけ。
タカ丸さん、今日は私の髪洗って?
「…あ、」
皆がいる。
丸い穴が開いた橙色の空から私を見ている。
「あ、じゃない!馬鹿者!」
「なんで蛸壺の中で寝てるんだ!?」
「風邪ひくよー?」
ほんと、土のにおいだ。
ここは蛸壺の中。
手が伸ばされた。
「喜八郎」
滝は呆れていた。
隣では三木がため息をついていて、
タカ丸さんは笑っていた。
「ほら、上がれ」
ほんの一瞬、一瞬にも満たないような短い時間だけ、空を飛んでいるようだった。
「重いな…」
そう言ったけど、滝は私を穴の中からひっぱりだした、簡単に。
握ったままの右手は硬くて傷だらけで、温かい。
「徹夜明けなのにわざわざ捜させないでくれ」
三木はため息をついた。
「三木、隈できているよ」
「あたりまえだろう、会計委員会なんだから!」
気付いてないかもしれないけど、嫌そうに言うわりには三木、とても誇らしげだよ。
「綾ちゃん、髪土だらけだよ」
「うん。 タカ丸さん、洗って」
滝が厚かましいだろう、言ったけどタカ丸さんは笑って頷いた。
「滝くんと三木くんの髪も洗ってあげるね」
タカ丸さんがいうと、2人は嬉しそうに声を上げた。
ほら、羨ましかっただけなんだ。
「喜八郎」
「綾部!」
「綾ちゃーん」
三木も滝もタカ丸さんも笑ってる。
私の名前を呼んで。
私を見て微笑んで。
私の手をにぎって。
なんだか、
「早く帰るぞ! 焼き魚定食なくなる!」
「腹減ったー!」
「じゃあご飯食べてお風呂はいろうね~」
手放したくないなんて我侭、
「うん、それはいいね」
言ってしまいそうになる、
(私だけに笑っていればいいのに)
自分が嫌いになった。
「今日は魚が食べたい気分」
***
綾部目線は詩っぽくなるというか、書くのが楽です。
綾部は3人に依存していたらいい。
露骨にじゃなくて、こっそり。
でも嫉妬は露骨。
そういう自分が少し嫌、だけど3人にべったり。
そんな綾部(妄想)
なんか青春ぽい話が書きたかった…っ!
結果が伴っていないのはいつものことです(爆)