「にゃーにゃー」
「にゃーにゃーお」
「にゃんにゃんにゃー」
「にゃにゃーん」
「にゃーにゃーにゃー」
「にゃーにゃーにゃー」
「な、にやってんの」
「「猫と喋ってる」」
振り向いた竹谷とタカ丸が思ったより真剣な声でいうものだから、
問いかけた三郎は思わずぐいっと目を見開いた。
鉢屋三郎のこれほどまでに素の驚いた顔というのは実に珍しいものであったが、
2人はそれにも目をくれず、竹谷が両脇をかかえて抱き上げる白猫へ向き直る。
だらりとゆれるその猫の白い足がせわしなく宙を蹴っていた。
「にゃんにゃんにゃー」
「にゃーおにゃーお」
「にゃー」
「にゃー」
猫は大きな丸っこい目をばちくりと瞬きさせて、竹谷の向かいにしゃがむタカ丸を見つめている。
ひくりと黒い鼻先がゆれた。
三郎は黙って中庭の一角でそろってにゃーにゃーにゃーにゃーと鳴く竹谷とタカ丸を黙って見つめた。
なんとも理解しがたい行動だ。
それは猫にも分かるのか不思議そうに首を傾げていたが、
すぐに、ゆれるタカ丸の金髪に目を奪われている様子だった。
「だめだねえ、しゃべってくれないねえ」
「そうだなあ、どうしたらいいんだろうなあ」
しょげた様子の2人は、しゃがみこんだまま項垂れる。
猫は波打つタカ丸の金髪に腕をのばし、ひょいひょいと揺らしてじゃれて一人遊びを始めている。
「にゃーって言えよお」
「にゃーって言ってよお」
むうっとそろって頬をふくらませる。
なんかあいつら馬鹿な兄弟みたいだな、と内心呟きながら三郎は廊下にこしかけて2人をながめた。
遠めから1年生がこっちを見てるぞ。
猫だきあげてにゃーにゃー語りかけてるなんてかなりの奇行。
やはり目的が理解しがたい。
しかし、いい暇つぶしにはなるだろうか。
そう思って黙って見つめていると、へこたれていたタカ丸がぱっと顔をあげた。
振り上げられた長い髪に猫が興奮したように目を丸くする。
「あ、そうだ、三郎くんにもやってもらおう!」
「そうだな、三郎!」
「…は?」
なんだよおいおい、巻き込まないでくれ。
慌てて逃げようとすると、素早く竹谷の腕がのびて三郎の首根っこを捕らえた。
どうぶつ扱いするな!と三郎が嘆く。
「三郎くんもにゃーって言って」
「はあ?」
「ほら、いいから早く言えって」
「なんで、」
「おねがい」
「頼むから」
なんで猫に語りかけるのにこんな真剣なんだお前ら。
毒づいて逃げ出したかったが、タカ丸1人相手ならまだしも竹谷がいれば少し難しい。
竹谷から渡されたらしい白猫を同じように後から脇の下をもって抱き上げているタカ丸が、さあさあと猫を差し出してきた。
迫りくる猫の2つの大きな目が三郎を映す。
その視線から逃げるように目線をずらせば、猫の向こうにはじぃっと見つめてくる竹谷とタカ丸がいて、
あまりの真剣な様子に嗚呼これは逃げることは困難だと観念し、
「に、にゃー…」
蚊の羽音くらいで声で、言った。
我ながら情けない声だと後悔と羞恥に顔をしかめる。
竹谷とタカ丸はごくりと唾を飲んで猫を見つめた。
ぴくんとひげがゆれる。
「ニャオ」
人間じゃない声がした。
高いとも低いともいえないその独特の声が聞こえたことに、
竹谷とタカ丸がぱっと顔を輝かせる。
「やった!しゃべった!」
「よかったあ!」
「……どういうこと?」
2人が頭上でハイタッチをかわした瞬間に、ねこがぴょんとタカ丸の腕の中から飛び降りて、地面に軽やかに着地した。
そして、しなやかな足運びでどこかへ消えていく。
大喜びの2人はそれにすら気付いていないようで、手を取り合って喜んでいる。
「あの猫、この前まで病気だったんだ」
「もしかしたら声が出なくなってるかもしれないっていうから、鳴くかどうか確かめてたんだよ」
ああ、その説明でようやく合点がいく。
よかったねえよかったなあと笑みを浮かべるはいいが、猫は逃げたぞ。
なんにせよ探すのはまたきっと生物委員がやるだろうからもう放っておいた。
理由はわかったけど、だからってお前らが猫になる必要はないんじゃないかと思う。
やっぱりこいつら馬鹿だな。
呆れて立ち上がり部屋に帰ろうとすると、
「三郎くんって猫の分身みたいだね」と呟く声と、それに同意する笑い声が聞こえたけど聞こえないふりをした。
***
竹谷とタカ丸ににゃーにゃー言わせたかっただけです。(自白)
ものすごく内容の薄い話でごめんなさいorz
生物委員委員長代理、生物は責任持って最期まで育てるのがモットーの竹谷八左ヱ門。
猫っぽいあの人なら猫とも話せるかも!ということで竹谷がタカ丸に頼んでみたところ、
俄然やる気になってくれたタカ丸、あの子は本気です。
呼び方は「竹谷くん」「タカ丸さん」と一番よそよそしいのに、
(髪関連除けば)ほのぼのしてて仲良くってフレンドリーでスキンシップ激しかったらよいと思う^^
なんにせよ三郎羞恥プレイ(笑)