しとしとしと、静かな雨音。
激しいわけでもなくて、かといって外に出るには疎ましい天候。
「雨、上がんねぇなあ」
与四郎は向かいのソファーに座る仙蔵越しに窓の外を眺めて呟いた。
けれど、それに答える返事はない。
雨音は耳に障るほどでもなくて、聞こえなかったはずはないのに。
窓から仙蔵に視線をうつす。
俯いて長い髪が頬にかかるのも気にせず、一心に目線は自身の手元だけを見ている。
「仙ちゃん、何見とるの?」
「お前のそのツラよりは見て価値のあるもの」
ずいぶん辛辣なお言葉。
不機嫌というわけでもご機嫌というわけでもないが、基本的に仙蔵は毒舌なのでさして気にしない。
未だ仙蔵はこちらにちらりとも目線を寄越さず、
分厚い本を組んだ長い足の上に乗っけてそこばかり見ている。
形のよい輪郭は俯いた角度から見てもやはり綺麗で、
頁をめくる細くて一見華奢そうな指も、真剣な目も、思わず見惚れるくらい品がある。
与四郎は唇に薄く笑みを浮かべた。
「俺はねぇ、仙ちゃんを見とるよ」
膝の上に頬杖をつきながら言った与四郎のその言葉には、
あぁとかへぇという相槌の言葉すら帰ってこない。
ただただ仙蔵は本を読みふける。
仙蔵は美しい。
それは与四郎が一番知っているつもりだ。
しかしいくら美しいといえど、立花仙蔵は観賞用ではない。
見ているだけじゃ物足りない。
触れたいし触れられたいしその声だって聞きたい。
本の内容は覗き込むつもりで、同じ白いソファーに移動して隣に座り、仙蔵の細い肩に顎を乗せる。
「まぁた小難しそうなもん読んで」
そのままの姿勢で茶化すように言うと、
振動が煩わしかったのか、仙蔵は鬱陶しそうな仕草で肩をすくめる。
そういうつれないとこももちろん好き、だがちょっと冷たすぎやしないかと思う。
仙蔵と与四郎はいわゆる遠距離恋愛で、最低でも3連休の時しか会うことが出来ない。
ただでさえそのせいで会える時間が少ないというのに、
仙蔵は2人部屋なので、本当に2人っきりになれるのは外出したときくらい。
同じ部屋で同じ時間を過ごせるのなんて本当に稀なことなのだ。
(だから徹夜続きでろくに部屋に帰ってきていない文次郎には感謝)
何時間もかけてせっかく会いに来ているというのに、
その目が見る相手が自分じゃなくて紙っきれの集まりだなんて。
おもしろくない。
びっしり本を埋め尽くす、蟻んこのような小さな文字の羅列が目に入る。
どんな内容なのかとそれを覗き込もうとすると、
それよりもすぐ目の前にあるきゅっと結ばれた形も色も好み通りの唇が与四郎の目を奪った。
感触だって最高だということは、よぉく知っている。
勝手に笑みがこぼれたのを感じた。
「仙ちゃん、」
名前を呼びながら誘われるように線の細い顎に手を伸ばし、掴んでこちらを向かせる。
驚いたようにふっと開かれた目。
(やっとこっち向いた)
それに向かってにぃっと唇を曲げて笑みを浮かべて返し、すぐさま唇を塞いだ。
文句ならあとで聞いてあげるから。
「っ…ん」
間近で見ると女みたいにその肌のきめの細かいのが分かる。
目尻の方がほんのわずかに赤く染まって、
無理やりこじあけた唇の間から色っぽい吐息がもれた。
苦しそうに閉じられた目とひそめられた眉もまた様になっている。
それに見惚れながらも、口付けて舌を絡ませて息を送り込むと、今度は仙蔵が微かな声で喘ぐ。
カタッと高い音がして横目で見ると、仙蔵の手から本が落ちたのだと分かった。
与四郎は口付けの合間に満足気な笑みを浮かべる。
「よし…ろっ」
仙蔵は喘ぐ息を吐き出すと共に名前を呼ぶ。
組んだ足を下ろして身体をこっちに向けたと思ったら、すぐさま胸を押して叩いて抵抗した。
首に手をまわしてくれるくらい期待していたのに、残念。
久しぶりなその甘い行為を十分に味わってゆっくり唇を離すと、
仙蔵が乱れた息で恨めしそうに与四郎をにらんでいた。
その目はよけいに欲情を煽るだけだというのに。
「お前は晴耕雨読という言葉を知らんのか…」
「怒った顔もいいねぇ、仙ちゃん」
「阿呆」
話を聞け、と呆れたように脳天にげんこつを落とされた。
「全くなんなんだ急に、」
「急じゃねぇよ?
仙ちゃんが俺を無視してずぅっと本読んどる間、ずぅっとしたいと思っとったもん」
「もんって言うな気色悪い!」
「おっ」
また拳骨を振り落とされそうになったので、与四郎は今度はそれを白刃取りで防ぐ。
色の白い細い手首は、親指と人差し指でわっかを作れば握りきれてしまいそうだ。
仙蔵は意図も簡単にそれを受け止められたことを不快に思ったようで、むすっと顔をしかめる。
「せっかく来たんだぁよ?
いつまでもおあずけなんて、性にあわねぇ」
「だ、か、ら!晴耕雨読という」
「んじゃあ晴れの日しか励んだら駄目なんけぇ?」
「励むって、おまっ」
掴んだままの手首をひっぱって、もう片方の手を頬に宛がい、
今度は触れるだけのままごとみたいな子供のキスをあげる。
これだけじゃ物足りないと知っているから。
(ほぉれ、上手におねだりしてみ?)
「……嫌だからな」
「嫌よ嫌よも好きのうちだぁよ?」
自分が一番知ってるはずだと笑いかけると、
羞恥か怒りかはたまた期待なのか。
白いはずの頬を僅かに朱色に染めた仙蔵は、鋭い目をしたままふんと鼻を鳴らした。
「ふざけたことをぬかすな」
悪態を言って、そのままそっぽを向こうとする整った顔を両手ではさんで固定する。
ようやくこっちを向いた視線を逃すわけにはいかない。
本人はえらくお気に召さないようだけど、これなら逃げられないから丁度いい。
笑みをうかべて、指先で耳に艶めく黒髪をかける。
「仙ちゃん、俺のことだけ見て」
「…もう見てるだろうが」
「そうじゃけど、」
そんなもんで満足する俺じゃねぇよお?
(もち、仙ちゃんもじゃろ?)
耳元で囁くと、簡単にくぐもった声を漏らす。
悔しそうな顔がさらに朱みをさしていて愛おしい。
「外は雨じゃけど、仙ちゃんは読書がいいんけぇ?」
「…もう勝手にしろ」
「んじゃ勝手に」
それじゃあ今日は、
「私も会いたかった」と素直にいうまでたっぷり愛してあげるとしよう。
***
リクエストの「与仙現パロ」です。
加宮さん素敵なリクエストありがとうございました!!
なんかほのぼの目指したはずなのに、び、微妙…?
土日とかは会えなくて最低でも3連休必要設定w
そうしないと毎週でも会いにきそうだったので、距離的に焦らしてみる作戦ww
与四郎さんの鬼畜っぷりと私のフェチ心をくすぐるあの方言が表現できなくてごめんなさいorz
すごく関西人というか私の地元の方言が出てるような気がします…
間違えていたら教えてください(土下座)
でもすごく楽しかったですww
このままはまりそうでこわいです!与仙!!(ニマニマ)
もんじろう家に帰れないフラグ(笑)
部屋の前で様子を察してアンノヤローみたいな。
だってその上inソファープレイですからね(黙ろうか)
なんにしても後から怒られると思いますw
壱万打リクエストありがとうございました!