「兵助くん、話聞いてる?」
「聞いてない。それより、」
「いいからちょっと聞いて!
あのね、今日ヨシくんと交渉して、後から抱きついたりとか顔埋めたりしないなら、
仙蔵君の髪触ってもいいってことになったんだよ!」
ああそう、そんなこと今はどうだっていいっての。
ていうか今まで抱きついたり顔埋めたりしてたのかコノヤロウ…
兵助は内心毒づいて、眉間にしわをよせた。
ここ数日、兵助はすこぶる機嫌が悪かった。
原因は本人こそなにも言わなかったが、彼と親しい人物なら誰だって分かる。
三郎に言わせれば「兵助をあれほどあからさまに不機嫌にさせる人間は俺とあいつくらいしかいない」らしく、
そのあいつにあたる、頭上でにっこり笑う斉藤タカ丸が、まさしくその原因だった。
「よかった、俺ヨシくんに嫌われてなかったみたいで」
まただ。
また、今日も「ヨシくん」。
ここ3日間ずっとタカ丸の話に出てくるその名前。
最初誰のことだかわからなかったが、聞けば錫高野与四郎さんのことらしい。
一昨日は「ヨシくんと仲良くなったよ!最初は怖いかと思ったけど、思ったより優しいしおもしろい人だったよ」で、
昨日は「仙蔵くんが髪触らせてくれない…!絶対ヨシくんが手ェ回したんだよ…っ!俺…嫌われちゃったのかなぁ」。
毎晩毎晩後から抱きつかれて耳元で囁く声が呼ぶのが別の人の名前で、
あの人の髪に触れたいとか、嫌われてないか心配だとか。
いい加減、もとより沸点の低い兵助は頭にきていた。
こいつのことだから人が妬いてるのをみて喜びそうで、それが癪だから今まで何も言わなかったけれど。
やっぱり腹が立つ。
しかもその上、
「な・ん・でっ手首縛るんだよ!」
「あは、たまにまこういうのもいいでしょ」
「なにが!!」
兵助は自分の両手首を縛る、女装のときなんかに使う鮮やかな桃色の帯とタカ丸をみくらべる。
油断してたらあっというまにやられて、挙句押し倒された。
後輩に、しかも入学間もない新米にしてやられたことも悔しかったが、それ以上に拘束するのがやたら上手いのが腹立たしい。
「これ今日ヨシくんに教えて貰ったの。
前々からたまーに仙蔵くんの手に縄の痕あったからちょっと気になってて。
あ、この結び方だったらあんまり痛くないけど絶対に抜けられないんだって」
縄抜けしようとあがいていると、にっと笑ってそういわれた。
またその名前か。
人をこんな風にしておいてよく他の名前が呼べるな。
ただでさえこの状態で襲われて腹が立っているというのに、よくまあ神経を逆撫でするのが上手い男だ。
「うるさいっ」
「わっ」
寝転んだ体勢のまま、覆いかぶさってくるタカ丸の脇腹をめがけて蹴りを飛ばす。
しかし、ぎりぎりのところで避けられた。
なんだかんだで反射神経だけはいいんだこいつ。
「あぶないなぁもー」
「…今最高に気分悪い。退け解け帰れ」
「機嫌なおしてよ」
甘い声で言って、しわのよった眉間にひとつ口付けをおとされる。
長い金髪が肌を撫ぜた。
「生憎、俺にこういう趣味はない」
「でもやってみるとはまるかもしれないじゃん。ほら、仙蔵くんにこんな趣味ありそうに思う?」
「それは…」
むしろどちらかというと縛る方だと思うけれど。
口ごもっている間に、輪になった腕の下潜ってタカ丸が顔を出した。
強制的に距離がぐんと縮まり、腕に絡まる髪がふわりとくすぐったい。
鼻先でにっと笑みを浮かべられて、至近距離でそれを見てしまったら、思わず目をそむけてしまう。
でももう、目にしてしまったからだめだ。
「ね、俺が機嫌なおしてあげる」
機嫌損なわせてる本人がよくいう。
こいつの場合、十中八九確信犯だろうけど。
「……できるもんならしてみれば?」
「まかせて、兵助くん」
腕をきゅっとしめると、首の熱が腕に伝う。
すこしだけ苦しそうに笑いながら、タカ丸は細い指で俺の髪を耳にかける。
その声で名前を呼ばれるだけで妙に心地よくなるからおかしい。
「タカ丸」
「うん、なあに?」
「いちいち嫉妬させるな、面倒くさい」
「…兵助くん可愛い。
好き、大好き、愛してる」
うるさい、と蹴りを入れる代わりに軽く首を持ち上げて額に軽く頭突きをかましてやった。
痛くも無いくせにひどいなぁと笑って呟くタカ丸は、すぐそこにある唇にひきよせられるように口付けする。
手首を結ぶ帯と他の誰かを呼ぶ声だけは煩わしいけれど、そこ以外は全部、
「俺も」
後日、縁側。
「手首に痕残ったって殴られた…」
「どんまいwwで、どぉだったんだぁよ?」
「…たまにはいいよねぇ、ああいうのも興奮してv」
「またおもしろいこと教えてやんよぉw」
***
すごく土下座!!
とりあえずタカ丸と久々知に拘束プレイしてほしかっただけです…。
コウさんから与四郎さんによる人体拘束講座というネタをお借りしてもいいと許可いただいたのでww
タカ丸と与四郎さんはノリがあいそう!仲いいと嬉しいですw
昨日はお互いやきもちやいてくれた恋人と楽しい夜を過ごしたらしいでs(略)
2人で縁側で話してるとだんだん内容がエロスになっていきますから!早く誰かとめて!!(笑)