お世辞にも寝心抜群とはいえない鍛えられた男の膝の上で寝転がりたくなったのは、
多分季節が春になって、そこに竹谷がいたからというなんとも単純なもの。
今日、卒業試験が終わった。
自慢じゃないけど保健委員長である私はおよそ六年の学生生活の間、
実習や試験なんかになると大概不運ななミスをやらかして点数を下げたりしてしまうことが多かった。
けど今回はなんの怪我も失敗もなくて、自分でも驚くぐらいのいい成績だった。
(運がよかったなぁ)
そう思っていたのはさっきまで。
そんなの、私の部屋に拗ねた顔でやってきたお前の顔を見たら吹き飛んでしまった。
私がこの学園を卒業することが、これで決定したのだから。
これからは今までのように竹谷とも会えなくなってしまう。
それでも竹谷は「行かないでくれ」なんて言わない。
きっと「また会いに来てくれますか?」とも聞かない。
竹谷は私が会いに来ることも、でもわざと会いに来ないことも知ってると思う。
だから、それまで焦がれて焦がれて狂いそうになるまで私のことしか考えられないようにしてやるんだ。
そんなことしなくたってさ、お前が私のことを好きなのは知ってるよ。
でもね、私の性格は知っているだろう?
こんな嫌な性分だと、こんな方法しかとれないんだ。
馬鹿みたいだけれど。
「会いたかったんだ」
ほんうとは、凄く、もの凄く、死ぬほど。
この3日、太陽が沈んで出てくるのをほんの3回繰り返したそれだけでも、会いたいと何度も思った。
こんな調子ででお前をどうにかなりそうなくらい狂わせるまでちゃんと焦らせるのか心配だよ。
ああでもきっと焦らしてみせる。
私は性格がかなり悪いみたいだから、きっと泣いた顔が見たいんだ。
卒業するときにお前は泣かないから。
いつか会いに来ると確信を持っているから、泣かないだろう。
桜の咲くころには私はここから出て行く。
その時きっと、竹谷は私にすがって泣いたりしない。
気丈に太陽みたいな笑顔で、
「怪我をしないでくださいね、アンタ不運なんだから」
と言って卒業式の後、一番最後にぎゅっと私に抱きついてくれるんだろう。
いっそ泣いてくれればいいのに。
それならもしかすると、優しい言葉で慰めて抱きしめ返してあげられるかもしれないのに。
(あ、 )
顔を見なくても、泣くのを堪えてることはわかった。
頬から顎を撫でる指先に感じる振動で。
でも顔をあげて目があえば、きっと、
「ただいま」
ああほら、
「おかえりなさい」
困ったように笑う。
仕方のない人だと諦めたような顔。
我が儘を言いたいくせに我慢する子供の顔。
またそんな顔させてしまった。
(一言、そんな顔するなといえば、笑う?それとも泣く?)
私がお前を好きなことも、
それでも上手くそれを伝えられないことも知っているのに、
なんにもお前から行動してくれないから。
だからこんな意地悪しているんだよ?
なんでそこだけ分からないかな。
そんな顔より、もっと泣いてもっと笑ってもっと怒った顔の方が好きだ。
それが見たいから、私はお前から離れていくんだよ。
私も臆病だけど、
きっとお前も同じだけ臆病だ。
「もう春だな」
「…そうですね」
不器用に額を撫でる竹谷の指が前髪に絡まる。
そういえば私の髪が好きだと言っていたっけ。
私はお前の淡い栗色の、いつも走り回ってるせいでぼさぼさのその髪が好き。
これから春になって、冬眠からさめた生物たちのおかげで忙しい日々を送るんだろう。
そういえば正式に委員長になるのか。
卒業する前に一言、おめでとうくらいは言っておこう。
「竹谷、」
思いっきり甘えた声で名前を呼べば、見上げたところにある顔が目を細めてちいさく笑う。
お前が私を忘れないなら、
必ず私はまた会いに来るから。
忘れないで、
「もう少し、このままいて」
私はお前が好きだよ。
***
コウさんにアルプスからダイブして欲しくて書いた。
でっ…でもこんなんじゃ子供プールにもダイブしてもらえない!(それはそれで危ない)
コウさんがほら、前に「拍手で言ったことは全部煽ってるから」って仰ってくださったので、
遠慮せずに拍手文からいろいろ抜粋させて頂きました!すいません!
竹谷も伊作先輩も、お互いのこと肝心なところだけわかってないみたいなね…!
お互いに「待ってろ」とも「待ってる」とも「会いに来る」とも「会いに来い」とも声を出していえないみたいな…!
コウさんの伊作先輩像とダッシュで離れていってますよねorz
伊作先輩の口調とか性格がいまいちつかめなくて…!いつかリベンジさせてください!!
リクエストありがとうございました!!