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1.朝
爽やかな日差しと小鳥のさえずりに、タカ丸は薄く目を開く。
携帯のアラームはまだ鳴っていない。
枕元のデジタル時計を掴んで目を凝らすと、

「んー………!? 兵助くん!!」
「やだ…」
「可愛いこと言ってる場合じゃないってば!起きて!もう8時半だよ!!」
「はあッ!?」
勢いよく上体を起した兵助はぱっちりと大きく開いた目でタカ丸を見つめた。

「アラーム忘れてたごめん!」
「阿呆!」
兵助はタカ丸を睨んでから、慌ただしく洗面所へ走っていった。
タカ丸は兵助が準備をする間に制服に着替える。

「朝ごはん作れない!ごめんね!」
「それはいいけど、うっわヤバイ!!」
洗面所から出てくると、いそいそと制服に着替え始める。

(まじめだなぁかわいいなぁ)
兵助のそれはもう必死な焦りっぷりに、
ついぼんやり見惚れてしまった。

「じゃあ俺先行くから!」
「あっはい!兵助くんカバン!あといってきますのちゅー!」
すっかり忘れられていた肝心のカバンを渡し、
ちょっと落ち着かせようと思って、冗談交じりにタカ丸が言った。

「んっ」
「!」
「じゃあ先行くから!!」
「……あ、いってらっしゃい」

タカ丸は騒がしい足音が遠ざかっているのを聞きながら、
唐突に胸座をつかまれて引き寄せられて触れ合った唇にそっと触れる。

(不意打ちとかずるい!)

タカ丸はすっかり急ぐ気もなくして、思わず赤くなった頬をおさえて立ちすくんだ。

 

***
タカ丸は結局1時間目サボります。
久々知は走ってる途中であれっ?とか思ってるといい。
2人は半同棲生活エンジョイ中です。

 

 

 

2.数学
ぎりぎり一時間目の数学に滑り込んだ兵助は、
授業が終わって安堵のため息をついた。

「おつかれ兵助」
後の席の雷蔵が苦笑を浮べて言った。
はい、とガムを渡される。
珍しく朝食も食わずに飛び出してきたためありがたい。
「ありがと」
「それにしても兵助今日ぼーっとしてたね」
「あー……うん」
まだ眠いのか、いつもより細められた目の兵助は小さく頷く。

「…」
「どうしたの?」
「あのさ、」
「?」

「ω(オメガ)見てるとアイツ思いださねえ?」
「……兵助かわいー」
「…?」

兵助は口に含んだグレープ味のガムを噛みながら首をひねった。


寝ぼけてる兵助は言動がおかしい。
ぱっと見ただけならわりと普通なのに、実際ちょっとおかしい。

(かわいいなぁ)

「飴いる?」
「うん」


***
後からこれが三郎の耳にはいって、
お前どんだけアイツのこと考えてんの(笑)って言われます。
雷蔵はオカンぽい気持ちで和んでいます。

 

 

 

 

3.授業中
ああ今日は兵助くんに悪いことしちゃったなぁ。
代わりに晩御飯はちゃんとしたもの作ろう。
朝はなにもできなかったし。

「斉藤―」

何にしようかなぁ…
ここ最近和食多かったし、たまには洋食かな。
クリームスープと鮭のムニエルとかにしよっか。
卵も有るし、オムレツもいいかもー…

「おーい斉藤―」

アスパラあったっけ。
トマトと玉ねぎはあるからオムレツのソースはケチャップベースで作ろう。
マッシュルームの缶詰あったかな?
そうだ、明日の朝ごはんの材料も買わないと。

「さーいーとーうー」

帰りに買い物行こう。
鮭と食パンとあとヨーグルトも買おう。うん。
あと他に買うものあったっけ…

「おーい!」
「あ、牛乳?」


***
タカ丸は先生にみっちり怒られます。
その後滝に今日の夕食なんですかー?って聞かれる。
お料理仲間なタカ丸と滝。

 

 

 

 

4.メール

 

 


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俺たち結婚しよう
 
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「送信☆」

「三郎、それ兵助の携帯?」
「さっきスった」
三郎は至極楽しそうに黒の携帯を握り締め、
今送ったばかりだというのに返信はまだかまだかと待ちわびている。

 

「後で殴られても知らないからね」
雷蔵は呆れたような口調でそう言っていたが、
今頃メールを見ているだろう彼の恋人のことを考えると反応が気になっている様子で、
同じように携帯を覗き込んだ。

 

 

***
三郎がついに覗き見だけでもなくメールまで…悪質ですw
雷蔵は2人のことを生暖かく見守っています。いろんな意味で。

 

 

 

 

5.返信


「おい三郎お前また勝手に他人のメール見てんのか」
「おっ兵助」
三郎から携帯を取り返し、兵助はため息をついた。

その時、その携帯の低く唸りながら小さく震えた。


「あ、メール」
「斉藤から!?」
「なんて!?」
「は?なにその食いつき…」

眉を寄せて不審そうに2人を見ながら受信したそのメールを開いて、
兵助は顔をしかめた。
三郎はまた携帯を奪い返して、雷蔵とともに覗き込む。

 

 

 


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うん、いいよ (●ゝ∀・●)b
 
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「……えーと、兵助おめでとう」
「あいつノリかマジか分っかんねー」
「?」

 

 


***
はい、久々知が送信ボックス見て三郎がぶん殴られるまであと5秒

 

 

 

 

6.弁解

 

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さっきのは三郎の悪ふざけだから!!

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うん、知ってるよ(^∀^)

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知ってるならお前もノリであんな返事するな!

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ごめんごめん

 

でも、もしかしたらへいすけくんだったかもしれないし
 
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「これは……どういう意味?」


「雷蔵まで勝手になにやってんの!?って三郎離せッ!!」
「兵助押さえつけてる間に“今日を2人の最大の記念日にしよう”って送れーー!!」
「おっけー」
「おっけーじゃねえから!!雷蔵!?」

 

 


***
雷蔵、出来心です。
なんとか未遂に終わりましたが、
あとから双子(モドキ)は久々知に怒られます。

 

 

 

 

7.噂話

「タカ丸さんがプロポーズされたそうです」
「…え?」
綾部が落ち着き払った声で伊作の肩にもたれながら呟く。
もっと取り乱してもいいくらい彼には懐いてる綾部が、
思った以上に普通に話したので伊作は少々驚いた。

「でも久々知先輩じゃなくて鉢屋先輩でした。
タカ丸さんは笑ってましたけど洒落になりませんよね、むかつく」
「…ちょっと意味が分かんないんだけど……プロポーズしたのは久々知ではなく鉢屋?」
「それでね、」
(スルー?!)


「タカ丸さん、ほんとにあの人からだったら嬉しいねって言ってた。
いいなぁいいなぁいいなぁ」
「えーっと綾部?」
むーっと肩に強く圧力をかけてもたれこんでくる綾部を支えながら、
伊作は少し慌てて問いかけた。
意図が読めない。

 


「いーいーなーあ」
(え、俺はプロポーズすればいいの?……このタイミングで!?)

 


***
どうする俺!?…伊作先輩はおどおどするばかり…
綾部は待ってます、先輩。

 

 

 

 

8.お風呂

「あー綾ちゃん、伊作くんどうだった」
広い風呂にタカ丸の声が響く。

「どうもこうもないです」
「プロポーズしてくれなかったの?」
「もうタカ丸さん結婚しましょう」
「俺今日モテモテだねぇ」
すっかり現実逃避気味な綾部がおかしくて、タカ丸はくつくつ笑みを浮かべる。
綾部は桶で頭からお湯をかぶって、ぬれた髪を犬のように振るった。

「あっ俺が髪洗ってあげるー」
「はーい」

 

 

 

その頃脱衣所

「あ、善法寺先輩」
「あ、久々知」
きょとんとした顔の兵助に、伊作は苦笑を浮べる。
「えーっと…今日は大変だったみたいだね」
「な、なんで知ってるんですか…」
とたん不機嫌そうに兵助は眉をしかめる。
伊作は綾部から事の終始を(若干不可解ながらも)聞いているだけに、
お互い大変だねぇと乾いた笑みがこぼした。
「まあこういうときは風呂でも入ってリフレッシュ…」

 

 

 

 

「あなたー痒いところはないですかあー」
「ふむ、なかなかじゃー」

 

 

 

「「!?」」

 

 

***
タカ丸と綾部はなにこのバカップルなノリ。
本人同士はギャグのつもりですがそれこそ洒落じゃないです。
 

 

 

 

 

9.ドライヤー

「兵助くんごめんってば」

謝っても兵助は機嫌を損ねたまま、そっぽを向く。
その拍子に濡れたままの髪が跳ねて揺れる。

「綾ちゃんとは練習してただけだってば」
「あなたーとか言ってべたべたして、何の練習だ馬鹿」

あらあらまだまだ怒ってらっしゃる。

 


(やきもち、可愛いなあ)


タカ丸は苦笑して兵助の水を含んでさらに艶めいた黒髪を、
ドライヤー片手に優しく撫でる。
スイッチをいれると、耳障りな音とともに高温の風が髪をゆらした。


「何のって、プロポーズうけた後の練習だよ」
ゴゴゴという風の音の合間から聞こえた言葉に兵助は顔をしかめる。
「そのことは忘れろ!」
「えー?」


だからあれは三郎の悪ふざけだってのに。
それでもなんだかこういう風に喜ばれるのも腹立たしい。

 

タカ丸はなれた手つきで兵助の髪をすばやく掻き撫でながら呟く。

 

 

 

 

「でもさ、もし兵助くんがあんなこと言ってくれたら俺、」

 

 

 

「                」

 

 

 

風の音がとても邪魔だった。
でもあの声で語りかけられるその言葉を聞き逃すはずもなくて、

 

「…阿呆か」


兵助は不覚にも赤くなった頬を隠すように俯いて呟いた。

「兵助くん馬鹿とか阿呆とか言いすぎ、ひっどいなぁ」
後でドライヤーの音に混じって、タカ丸の笑い声が聞こえた。

 

 


***
ドライヤーかけるの面倒くさがりそうな久々知はタカ丸のお世話になってればいいです。

タカ丸がなんて言ったのかはご想像にお任せします。
多分久々知がきゅんとするような一言だったと。

 

 

 

 

10.就寝

「お前まだ寝ないの」
「うん、今日見たい海外ドラマあるから!あ、先寝ててね」
「ん」
海外ドラマなんて大体深夜だ。
録画すればいいのにタカ丸はその時間まで起きて見るのを好む。
そこらへんが三郎と価値観が一致しているようで、妙な友情を築いているのだが。

 

「明日は朝ごはん作るからね。
あ、晩御飯食べに来る?
明日はねぇ、クリームシチューとか食べたいんだけど」
「来る。あ、今日のオムレツのソース美味かった」
「ほんと?よかった」
タカ丸はベットを背もたれにして、ベットの上で布団に包まる兵助の前に座った。
「あれ手作りなんだよー」
「知ってる」

そういうとタカ丸は嬉しそうに笑みを浮かべた。
部屋の電気は消されているので、テレビの青白い光だけがぼうっと浮かぶ。
金色の髪がいつもと違う光り方をしていて、つい目で追ってしまう。

でもだんだん勝手に視界は狭く薄暗くなってきた。
目蓋が重い。
今日は一日疲れた。


兵助はゆっくり目を閉じて、息をはいた。

 

 

 

 

「…へいすけくーん」

すうすうと穏やかな息が耳元でくすぐったい。
タカ丸は振り返って兵助の顔を覗きこむ。

 


「もう寝た?」

 

問いかけても答える声はない。
テレビから音楽番組の終わりを知らせる、あまり有名じゃない歌手のバラードが聞こえてきた。

 

「ねぇ、兵助くん」

 

 

 


「一緒に幸せになろうねぇ」

 

 


幸せにしろとは言わないし、してあげるとも言わないけど。

 

(こうやって寝顔を見られるだけで幸せで、兵助くんも同じように俺の側で眠れることに幸せ感じてくれてたら、)

 

 


(( 幸せだなぁ ))

 

 


兵助は手放しかけた意識の端でタカ丸の柔らかな声が囁くのが聞こえて、
それが夢か現実かは分からなかったけれど、こっそりそう思った。

 

慌ただしい一日が、ドラマの始まりを告げる激しい洋楽とともに終わりを迎えた。

 

 

***
この拍手小話のタイトル「久々知兵助の散々な一日」
拍手10回もありがとうございました!!
お粗末です!