指先で髪を撫でながら、頬に添えた手のひらで催促。
お互い何も口にはしない。
ただ白いソファーに並んで座って、
テレビの電源を消して向かい合っているだけ。
呼吸が共鳴しあっているみたいだ。
頬に触れた手の指が、まどろっこしそうに髪を弄る。
目の前の表情がだんだん不機嫌になっていくのが目に見えて分かったけど、
まだ、やだ。
繋がっていた目線が途切れる。
目線を落としたのは兵助くんの方で、
彼は唇を尖らせてふてた様子を俺に主張する。
やだなぁ。
こっち見てよ。
目、逸らさないでよ。
ぽすんと、俺の頬に触れていた手が乾いた音を鳴らしてソファーに落ちる。
すっかり力の抜けたその手はまるで、期待はずれだと俺を責めている様。
兵助くんは落とした目線を一度あげて、最後のおねだりとばかりに俺を見た。
必然的に上目遣い。
そういうのってちょっとずるいよ。
でも可愛いから、俺はその目線に応えてあげることにした。
俺だって兵助くんに触れたいもの。
俺はようやく自分の手を持ち上げて、
さっきしてくれたように兵助くんの頬に宛がった。
兵助くんは伸ばされて触れる俺の手を一度横目でちら見して、
その後また俺にまっすぐ目線を送ってきた。
黒い眼を縁取る睫毛の長さをあらためて思い知らされるまで距離を縮めると、兵助くんは目を閉じた。
薄っすら、不自然じゃない程度に開かれた唇が俺を誘う。
だから俺はお望みどおり口付けて、
でも、ちゅっと音を立て、温度を交わす間もなく唇を離した。
兵助くんは驚いたように目を開け、眉間に皺を作った。
もっと可愛い顔してよ、ねぇ。
そんなんじゃ煽られてあげないよ。
俺は兵助くんの頬に手を宛がったまま。
にこりと笑うと、彼はついに声を漏らす。
「…早く、」
「はやく、なぁに?」
多分俺は今、すごく意地悪に兵助くんの目に映ってることだろう。
でもいじわるしたいわけじゃないんだよ。
まだ、やなの。
俺だって兵助くんにおねだりしたいこと、あるんだ。
ここからさきは上手く話を進めないと、
兵助くんは不機嫌になってしまうから慎重に。
俺は兵助くんの黒髪を指先に絡め、その後頬を撫でる。
求愛行為だって、分かるよね?
「ねぇ兵助くん」
いつも俺がしてること、たまにはやってよ。
そう耳打ちすると、手のひらに感じる兵助くんの体温が急上昇した。
丸くした目で俺を見つめ、よく知っている唇をぱくぱくさせる。
「別にちゅーくらい今更でしょ?」
「…いつも主導権握ってるのお前だろ」
「だから兵助くんが、して?」
暇を持て余していたもう片方の手も同じように頬に添え、
おでこがぶつかり合うくらいの距離でおねだり。
作為的に上目遣い。
兵助くんは顔を真っ赤にして、いまいち乗り気じゃない。
けど、もう一押し。
「俺も兵助くんにきもちよくして欲しい」
ねぇだめ?と誘ってやる。
兵助くんの睫毛が揺れた。
脈あり。
考えている様子の唇が尖がっている。
触れたい、触れられたい。
俺が急かすように目の前の黒い眼を見つめていると、
兵助くんの両手が俺の頬に宛がわれた。
2人して同じ体勢って、変なの。
でも俺よりも熱い手のひらと、まっすぐ俺を見る瞳が心地良い。
「じゃあ、」
この距離だから拾い上げられる声。
あ、兵助くんの頬がまた熱くなった。
「…手本、見せて」
呟く言葉に、俺は思わず苦笑してしまった。
そうきたか。
でも兵助くんがこんなにも求めてくれるなら、
それに応えなきゃ男が廃るよねぇ。
「じゃあ兵助くん、練習してね?」
「…頑張ります」
兵助くんは優等生だもの。
すぐに上手になってくれるだろうなぁ。
閉じられた目、赤い頬に落ちる睫毛の影。
兵助くんの両手は俺の頬を離れて頭の後ろに回される。
俺の両手は兵助くんに触れたまま。
距離を詰めてさあ今から始めますよの合図に、一度、唇を舐める。
薄く目を開いた兵助くんと目があう。
ううん、もう出し惜しみしたりなんかしないから大丈夫。
そう微笑むと兵助くんはまた目を瞑って俺を求める。
息をのむ音がした。
頭を抱きしめる腕が催促するように力をこめる。
お待ちどうさま。
俺は兵助くんの唇にゆっくり、自分のを重ねた。
***
トリプルエックス【XXX/たくさんのキス、猥褻度がいちばんたかいこと】
ということで、タカ丸が犯罪的にちゅーが巧くて、
久々知はタカ丸のちゅーが好きだったらいいなあという話。
でもって久々知はタカ丸の指導によって犯罪的にちゅーが巧くなる、予定。