昼間から縁側で、暑いくらいの太陽のもとひなたぼっこ。
こういう平和な休日はこの場所で過ごすのがもはや習慣になっていた。
涼しい風が伸ばしっぱなしの髪をふらふら揺らす。
「くすぐったい」
肩にもたれた頭をもぞもぞと動かし、小松田君がそう呟いた。
風で流れる髪が頬をくすぐりこそばゆいらしい。
じゃあ離れてればいいじゃないか、なんてことは言わず、
我慢すればいいそれくらいと言って、甘栗色の髪ごと後頭部を抱き寄せる。
ちいさな子供みたいに艶やかなそれを指に絡めて遊ぶ。
小松田君も文句をいうわりには身を預けてくつろいでいる。
「ねぇ、利吉さん」
「ん」
「なんだか幸せです」
すごく気持ちよくてあったかくて幸せです。
小松田君はそう言って顔を上げて、細めた目と薄紅色の唇に笑みをにじませた。
まるで小さな子供みたいに屈託のない、ああまぶしいと感じるようなその表情に、思わず私は目線を背けた。
その気になればいつだって口吸いだって触れる事だってできる距離で、
あまりにも不意打ちな言葉と笑み。
心臓の鼓動がいつもよりも早鐘で、熱が巡る。
「…君といると本当、疲れるよ」
後ろ髪を撫でていた腕で、彼の頭を胸に抱き寄せる。
こんな真昼間から煽らないでくれ。
無自覚なのだからより性質が悪いのだけど。
はあと大きくため息をつくと、
私の胸元でおとなしくしていた小松田君と目があう。
覗き込むように私を見上げる表情が、どうしたことか、不機嫌そうだ。
「小松田君?」
「…離してください」
は?と聞きなおすも、小松田君は頬を膨らませ、
私の胸元を拳を固めた両手でぽこぽこ叩いて、腕の中から逃げ出そうともがいている。
「どうしたんだ急に、」
「だって、利吉さんが、」
抵抗する腕をつかみ封じることなどたやすい。
だが、なるべく小さな力で細い腕をつかみ、握り締めた指を解いて絡ませる。
ぎゅっと力を込めると、小松田君は不機嫌そうだった顔を今度は泣きそうにしかめた。
くるくる変わる表情は毎度見ていて飽きないけど、こんな顔が見たいんじゃない。
私が見たいのは君の、そういう顔じゃないんだ。
「私が?」
「利吉さんが今、僕と一緒にいると疲れるって言ったじゃないですかっ」
「・・・は?」
「僕は利吉さんがお仕事で疲れているから、ちゃんと休んでほしいんです!
でも僕がそれの邪魔になっているのなら一緒に居ちゃ、だめじゃないですか…っ」
僕は利吉さんが大事なんです。
きゅっと絡ませた指に力が帰ってくる。
小松田君の言葉を聞いて、ああ、心臓、うるさい。
でもそんな殺し文句、できればもっとましな顔で言ってほしい。
そんな誤解、する方が馬鹿だ。
見当違いもいいところだ。
だからもっと、いつもみたいに、笑って。
「あのね、」
絡ませた指を解くと、離れた指がぴくんと震えた。
離れられるとでも思っているのか。
まさか、離しやしないのに。
「君といると、」
一度離した手を、今度は彼の頬へあてがう。
小松田君は驚いたように目を丸くした。
「君のそういうとこが、心臓に悪くて疲れるんだよ」
額が触れ合うまで近寄り、丸い瞳を覗いてささやく。
目じりがふわっと赤くなって、頬が熱を帯びる。
にっと唇に笑みを浮かべて向けると、ようやく意味が通じたのか、小松田君は笑う。
ほら、やっぱり、心臓に悪い。
でも、君のその顔が一番私を癒してくれるんだ。
だからちゃんと傍に居て、これからもそうやって笑っていて。
***
お題「そのままとられたら困ってしまう」(TVさま)
王様に提出いたします^^
タカ丸が「一緒にいるとどきどきしちゃって心臓、もたないよ」っていうなら全然ふつー。
久々知に「お前といるとなんか、心臓、うるさくて困る」ていわせるのもギリ大丈夫。
でも利吉さんが「心臓に悪くて疲れるんだ」っていうと仕事のしすぎで患ったのかと思います。すいません。
ようはあの、利吉さんだととてもとても恥ずかしい…!!