かくれんぼ

 

 

 

 

ぱっと目を覚ますと、
深い緑色にゆれる木の葉が視界を覆った。
屋根が無い。
見上げる先は空の青と木々の緑ばかりだ。
 
 
「あ、れ…?」
 
 
瞬きを繰り返しても、やはり景色の色は変わらない。
さわさわと心地よい風が頬を撫ぜて、太陽の心地よい光も落ちてくる。
タカ丸は体を起こして、眠たい頭で考えた。
ここはどこだろう。
 
 
「えっと…確か今日は1年は組の授業に参加して……あ」
「……なにやってんだお前」
 
 
独り呟いた時に後ろから声をかけられ、タカ丸は肩を跳ね上げる。
気配も足音も無く、気づかなかった。
しかし、声に覚えはある。
 
 
「兵助くん?」
タカ丸がぱっと顔を輝かせて振り返ると、
呆れたような顔の兵助がため息をついてそこに立っていた。
「なんでこんなところで寝てんだよ」
「は組のみんなとかくれんぼしてたんだけど誰も見つけてくれないからつい」
「あぁ、隠れる授業か…」
「うん。見つからなかったみたいだよ、俺!」
照れ笑いを浮かべるタカ丸に調子に乗るなと軽く頭を小突いて、
兵助はしゃがみこみながら再度ため息をつく。
今度はタカ丸だけにではなく1年は組の子供たちにも向けて、である。
なぜ堂々と昼寝している金髪頭の男を見つけられないんだ。
 
 
「どれくらい寝てたかなぁ…みんなまだかな」
「少なくとも一時間は爆睡してたぞお前」
「そんなに?」
タカ丸は少し驚いたように目を丸くして、隣で呆れた表情を浮かべる兵助を見やった。
兵助は「だいたいお前は油断しすぎなんだ」と小言を呟いていたが、
その声よりも、タカ丸は夏の風にゆらゆらゆれる黒い髪に意識を奪われてしまう。
髪に意識がいくのは、髪結いの癖といえばそれだけだが、タカ丸にとって兵助の髪は特別だった。
見ても触れても飽きないし、一度触れればもっともっとと離すのがもったいなくなってしまう。
髪質ならもっと上等な人は探せばいくらでもいるだろうが、兵助がなびかせる黒髪だから、指先を誘われる。
タカ丸は結い上げられた長い髪の一房を指に絡め、自分の鼻先まで軽くひっぱった。
 
 
「…人の話聞けよ」
「んー…、ねぇねぇ兵助くん」
「あ?」
 
 
タカ丸は甘い猫なで声で名前を呼び、くるりと指先で髪を捉えたまま離さず、
振り返った兵助の鼻先まで距離を縮めて迫りながら、にぃっと笑う。
 
 
「一時間前からここにいたんだ?」
「っ!」
 
 
その一言に、暑さも日焼けでもなく、兵助の顔が一気に紅潮した。
大きな目をさらに大きく丸くして、少し意地悪く笑うタカ丸に何か言おうと口をぱくぱくさせている。
それでも、唐突なことで驚きが大きすぎたのか声はひとつも出てこない。
 
 
「兵助くん、油断しすぎ。
 ねぇ、ずっと隣にいたの?
 なにもしなかった?」
「っなにもしてな…」
「本当?」
ずいっとさらに顔を近づけ、兵助の瞳をまっすぐに覗きこみ、額を合わせながらタカ丸はさらに迫る。
明度差の大きな前髪同士が絡み合い、どちらともない汗が流れ落ちる。
言葉にならずに慌しく口をぱくぱくさせる兵助のすぐそこには、やわらかく弧を描くタカ丸の唇があった。
目線に入ってくるその薄紅色のそれに、兵助の頬がさらに血の気を増す。
タカ丸の目が細まった。
 
 
「口付けくらいはしてくれた?」
「ちがっ、」
「ちがうの?」
「………ちが、わない」
 
 
消え入りそうなくらい小さな声で呟いた兵助の頬はこれ以上ないっていうくらい真っ赤だ。
タカ丸は少し意地悪く追求しすぎたかもしれない、と思ったけれど、
こんなに慌てるのも可愛く思えて、つい噴出してしまった。
それに兵助は不機嫌そうに俯き、タカ丸から顔を背ける。
やはり少し意地悪すぎたようだ。
タカ丸は苦笑しながら、下を向く兵助の頭を両手で抱きしめる。
頬擦りすれば艶めく黒髪が心地よい。
 
 
「ずるーい兵助くん。
 俺は夢の中でしかしてないのにー」
「…うっさい」
「ねーちゅーしていい?」
「…だめ。暑い、邪魔、退け」
兵助は不貞腐れた声で言いながら、タカ丸から離れようともがく。
が、その気になれば吹っ飛ばして体を離すことなど容易いはずの兵助が、
ろくに力も込めずに拒むからには、それが本心からではないのは簡単に汲み取れた。
だが、言われたとおりに腕を解いて兵助を解放する。
 
 
「じゃあさ、夢の中でしよっか?」
「…同じ夢見れんのかよ」
「手、繋げば」
 
 
そう言って差し出された手と笑みを浮かべるタカ丸に視線を交互に寄せ、
兵助は3度目のため息をつく。
今度は、こうやっていつもこの男に絆される自分に、だ。
懐っこく笑う顔にはどうも弱い。
 
 
「…夢の中で寝るなよ」
「寝かせてくれないでしょ?おやすみー」
 
 
ぎゅっ手を繋ぎ、兵助は仰向けに体を寝かせたタカ丸に引っ張られるように草むらに転がった。
暑さも増す夏も真夏の真昼間だというのに、繋いだ手が心地よい。
きらきら光る明るい髪と同じく明るい微笑を眺めながらついまどろむ。
兵助は自分の指と長い指が絡まっているのを確認しながら、小さくつぶやいて眠りに落ちた。
 
 
「おやすみ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
***
 
 
ちなみにその後は組のよいこたち(ようやくみつけました)
兵太夫「おたくの上級生さぁ……」
伊助「うん、もう既に十分知ってるから言わないで」
乱太郎「どうする?日射病になっちゃうかもしれないし起こしたほうが…」
伊助「…うん、でもさ」
乱太郎「でも?」
伊助「なんか幸せそうだしね、別にいいんじゃないかな」
庄左ヱ門「…伊助、それ親切という名の放置プレイだよね」
 
2人はその後自分たちの委員会の顧問によって回収されました(一番恥ずかしいパターン) 
流石に友達に自分んとこのバカップルが野外でイチャコイてるのを友達に見つかるのは恥ずかしい。
見つけたのが三郎次だった場合はそくざに他人のふりです。「いやあんな人たち知らないです自分(マジ顔)」
久々知は男前でもへたれでもいいと思います。タカ丸も同じく。