テーブル向こうの俯き顔。
流れ落ちる金髪がはらりと落ちて、夏なのにたいして色づいてない肌に薄く落ちる影。
細い首、細い手首、ペンをもつ細い、長い指。
伏せた目がすこし大人びていて、部屋の照明を反射して馬鹿騒ぎするように輝く金髪とミスマッチだ。
ふにゃふにゃしてるくせに、けっこう芯がしっかりしてて、馬鹿みたいに派手な見た目に反して、真面目で努力家。
斉藤タカ丸、変な奴。
「あ、ここ、スペルミス」
薄紅色の唇が動いた。
と思ったのが早くて、言葉が耳に入ってきて頭の中で処理されたのは数秒後。
兵助は小さく瞬きして、はっと我に返った。
「兵助くん?どうしたの、ぼーっとして」
「…いや、なんでもない」
「そう?じゃあ、ここだけど、」
タカ丸は首を傾げながらもそれ以上は追求せず、仕切りなおして兵助の英語ノートの一文を指差した。
切りそろえられて丸く磨かれて、まるで女物みたいに洗練された爪がちかっと光る。
「ここはねぇ、」
間違えているらしい英文を訂正しているタカ丸の手はさらさらと綺麗なアルファベットを綴って、
説明する声は流暢な、まるでリスニングのCDみたいな英語を話していた。
流石、父親について行って海外で2年も生活していただけのことはある。
こいつに教えてほしいと頼むのは料理と映画くらいかと思っていたのに、なぁ。
「…ねぇ、兵助くん、聞いてますか?」
ふと気がつくと、少し不機嫌そうな表情でタカ丸が顔を上げていた。
黄色い前髪の向こうで整えられた眉と眉の間に、小さくしわが寄っている。
どうも集中力が散漫しているようで、説明する声は聞こえていたけど、言葉は聞いていなかった。
「悪い」と苦笑を返すと、タカ丸は「もー」と小さく呆れた風に溜め息をついた。
不機嫌そうに唇を尖らせる姿は、本当に年上なのかと思えてくる。
さっきまでの、年上めいた表情や仕草はすでに跡形なく消えていた。
ころころ表情が変わって、それにあわせて雰囲気までがらりと変わる。
本当に年上かと疑っていると、憎らしいほど大人びて見せ、にぃっと笑う。
つかみ所がいまいち分からない。
じっと見つめていても、分かるのは奴がただただ人好きする容姿をしていることくらい。
容姿は馬鹿みたいに派手だし、性格も一癖あるし、
「……俺、なんでお前に惚れたんだろ」
「えぇっ!わかんないの!?」
タカ丸はしかめっ面で悲しそうな表情を浮かべる。
ひどいよひどい!と騒ぎ立てるものだから、兵助は顔をしかめて問いかけた。
「じゃあお前、そんなのはっきり分かるのかよ」
「分かるよ! まずねぇ、兵助くんは髪がすごく綺麗!」
「…そこかよ」
タカ丸の第一声は予期していたものとやはり同じで、兵助はつい、拗ねた子供ような声になる。
しかしタカ丸はへらりと笑い、それだけじゃないよと続けた。
「それに背筋も綺麗でね、遠くから見ても兵助くんだって分かるんだよ。
声もかっこよくて、名前呼ばれると嬉しくなるでしょう。
あ、頭なでてもらうのも好きだなぁ、気持ちいいから。
時間にきっちりしてるし、勉強の教え方上手だし、笑うと可愛いし綺麗だし、
あとねぇ、ご飯食べたあとちゃんと感想言ってくれるしね。
そういうところ好きだなぁ」
耳に心地よい声が、タカ丸が指折りするのにあわせて流れ込んでくる。
兵助に向けてタカ丸は微笑み、兵助はそれから逃げるように目をそらす。
もう、声だけでも十分赤くなっているのに、それ以上は心臓がもたなくなりそうで。
「…お前、恥ずかしいこと、言うな」
「そぉ?でも、言葉にできないけど好きだなぁってところもいっぱいあるよ。
なんかね、心臓がもたないっていうか、死んじゃいそうになっちゃって、
そういうとき兵助くんのこと大好きなんだなぁって思うんだよね」
「…ふうん」
「そういうの、ない?」
無いわけが無い。
まさに今がそれだ。
兵助はどくんどくんとスピードを上げて鼓動する心臓に、治まれ静まれと脳から信号を送る。
それでも言うことを聞かない。
いつだってそうだ。
タカ丸といるともはや病か呪いか、そんな類のものみたいに、いつも早まる鼓動がついてまわる。
死んでしまいそうで恐ろしい。
「お前、俺のこと、好きだな…」
「兵助くんも、俺のこと大好きでしょ?」
だって、ずっと見惚れてたもんねぇ。
タカ丸の囁きに兵助は小さく息を付いた。
この確信犯め。
じとりと見やると、笑った目と視線が合う。
口元をふにゃりと緩め、きらきらと髪を揺らし、目を細め、そうやって笑うところ。
馬鹿みたいに素直で率直で一途なところや、
外見よりもずっと真面目で努力家で人懐っこいところ。
料理の腕とか、髪を弄る手とか、たまに見える大人びた表情や名前を呼ぶ声。
つい目を奪われるし恋しくなるし、いつだって底なしに愛しいと思ってしまう。
どこに惚れたか、どうしてかなんて理由、有り余るほどにある。
考えた俺が馬鹿だった、と兵助は小さく笑った。
たまに殺されそうになるけど、そのときはやり返してやろうと決意する。
同じだけの心拍数をお前も思い知ればいい。
兵助が手を伸ばして名前を呼んで髪を撫でると、タカ丸は「大好き」と笑った。
どくんと、心臓が脈打つ。
言葉に、声に、仕草に、表情、その笑った顔に、
「それ、そくっりそのまま返す」
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30000打ありがとうございました!
「暮」にお越しくださった皆様、大好きでございます!お慕いしております!
拙文ばかりですがどうぞこれからもよろしくお願いします^^
お礼文、ちなみに目指すは血反吐吐くほど甘く、でした…。
でもこれちょっと控えめにしてみた結果ですが、
この夏の暑い時期にしては糖分の過剰摂取なきがします。
お礼という形で書かせていただいたのがこんな感じの好き好き言ってるだけのバカッポーですいません。
私、タカ丸と久々知も、大好きです(結構周知の事実です)