*リクエストいただいた「肝試し×鉢雷」のつづきです
「ねぇ…、もうちょっとゆっくりさぁ、へーすけく、…うわぁ!火の玉!!」
「あれはただの頭に松明つけて走りまわってるギンギーンの人。
んで、あっちはからくり。
たぶん糸にひっかかると上からなにか落ちてくるな」
兵助は面倒くさそうに、奇声をあげて震えているタカ丸をひきずって歩いていた。
腕にまとわりついてくるタカ丸には、もうどう言ったって離れないことは分かっているが、
この夏の暑いのにこうも密着されたらたまらない。
試しに「あつい、邪魔」と言ってみても、タカ丸はいやいやむりむりと首を横に振って、
ぎゅーっと腕にしがみつく力を強くするだけだった。
いつもなら多少の計算や求愛でこうやって密着してくるくせに、
今はそんな余裕もなく、暗闇からの物音に悲鳴をあげるばかりのタカ丸に兵助は息をつく。
「このへたれ」
「だって!急にくるんだもん!事前に予告してくれてたら俺だってびびんないよ!」
「それ肝試しの意味ないし」
「そりゃそうだけど…、ひゃぁああ!」
「糸ひっかかんなって言っただろうが!」
ますます腕組みをしてくる力が強まって、兵助は再びため息をついた。
タカ丸とペアになったのが自分であることに陰謀と少しの安堵を感じる。
おそらく陰謀のほうは三郎が小細工をしたのだろうが、
もう一方は腕にまとわりつく体温が他のだれかに感じさせることにならなかった故だろうか。
(…俺、なんかちっせーな)
内心嘲ってみるも、タカ丸ならば誰の腕にでもしがみつくだろうから当然の心配といえばそうなのだ。
この男は人懐っこいにもほどがある。
「ゴールまだ…?」
「まだまだ」
意地悪く答えた兵助の返事にタカ丸が顔をゆがめ、
年上のくせに本格的に泣きそうな顔をした。
(ああもう、そういう顔、すんな!)
兵助は腕に手をきつくからませてかがんでいるせいで、
いつもより近い距離で目の当たりにしてしまったそれに、思わず顔を手で覆う。
「…この、へたれ!」
「ひどっ!!なにそんな怒ってんの兵助くん!」
「うるさ、っ!」
文句に文句を返していた時、感じた気配にはっとして振り返る。
視界にしゅっと現れたそれは自分たちの方へと勢いよく飛んできて、
兵助は反射的にタカ丸を抱き寄せ、捕まえられているのと逆の手でそれを受けた。
「…は?」
からくりやらそういったものの類かと思っていたのだが、
腕にぶつかったその物体はべちゃりと音を立てて砕け散った。
紺の制服に白いあとが残っている。
「ひゅー、兵助かっこいー」
「…お前」
草むらから、からかう声と共に、見知った双忍が仲良く手をつないで登場した。
双忍とはいってもこんなろくでもないことをするのはその片割れしかいない。
「三郎!人に向かって、豆腐を投げるな!しかもはずれてるし!」
「阿呆か、俺の命中率なめんな。俺は斉藤の顔面狙ったんだよ」
「はあ?なんで……」
「まぁ想像してみろって。斉藤の顔に白いたう、「言うな!分かってしまったから、言うな!!」
「いやーん、兵助くんの助平ー顔真っ赤ー」
「声真似すんな馬鹿三郎!
ってか、なんでお前等なんでそっち側なんだよ性質悪いな畜生」
三郎の面白がる顔に思いっきり嫌そうな顔をうかべて、兵助は二人をにらむ。
だいたい、面倒くさがりの雷蔵と、面白がりの三郎が驚かす側に向いているはずがない。
雷蔵は僕も?という風に苦笑していたが、大雑把な彼のことだ。
三郎の悪だくみを知っていても止めなかったのだろうから同罪だ、と兵助はしかめっ面で言った。
「仕方ないだろ。くじに細工しようとしたが立花先輩にばれて睨まれたんだ。
本当なら俺だって雷蔵と回りたかったが、あの人、俺の変装をいかせると思ったらしいな。
作法は妙に驚かす側ではりきってるようだから。
で、仕方がないからお前等のだけ細工をしてやったわけだ」
「なんで俺たちだけ…!」
「立花先輩は睨むどころか微笑んでらっしゃったからな。もっとやれと言わんばかりに」
「…(あんの作法委員長め…!!)」
「ま、ここから先は本格的に作法の本気だぞ」
にっと笑って告げた三郎の言葉に、この先の道を歩くことに気が重くなる。
聞こえてくる悲鳴からいっても、確かに森の奥へと進むにつれ恐ろしさが増すようだ。
そんな中、この泣きそうな顔の男をひきずって歩くなど、お笑い草になる他ない。
兵助が項垂れていると、今まで黙っていたタカ丸が突然、兵助の手をとった。
「タカ丸くん?」
雷蔵が不思議そうにその行動に目を見張り、その隣で三郎も訝しげに顔をしかめる。
手をとられた兵助も驚いた表情を浮かべている中、
タカ丸はその手を口元にあてがった。
「っタカ丸なに…!?」
ぺろり、と手の甲を舌が這う。
その行動に3人は一斉に目を見開き、
傍から見ていた雷蔵と当人の兵助は顔を真っ赤にし、三郎だけは面白げに笑みを浮かべた。
「…兵助くん、もう、早く、いこ…?」
覚悟というよりも諦めの感情ゆえか、タカ丸の目は据わっている。
もはやさっさと終わらせたい一心である。
しかし、濡れた目できゅっと唇を噛んで見つめられてしまえば。
「…兵助くんの助平ー」
「…三郎、あとでぶんなぐる」
「へえ、あとで?」
むすっとした兵助の顔を見て、くっと三郎は喉を鳴らして笑う。
隣ではくすりと笑う雷蔵。
いらだたしいことこの上なかったが、兵助は二人から顔をそむけて、
自分の手をとっているタカ丸の手を握った。
「行くぞ、いちぬけ」
「えぇ!!えっと、にぬけーっじゃなくて!どうしたの!?」
「ばっくれる。走れ」
「わわっ…!!」
方向転換し、草むらのほうへ腕をひいていく兵助に、
タカ丸は圧倒されている間にずいずいと引きずられていってしまった。
どうすればいいのかわからず、とりあえず二人の先輩に視線を送るも、
二人そろって仲良く手を振って見送られてしまう。
いつまでも肝試しなんかを長引かせたくはないと思って、
兵助を促そうと思っただけだったのだが、手段が悪かったらしい。
(豆腐ついてたから舐めただけなんだけどなー…)
しかし、ばっくれることができたならこれ以上のことはない。
暗闇の中、化け物に食われるかと恐怖するのは勘弁だけれど、それが人で、まして兵助ならば話は別。
タカ丸はそう思って、兵助の手をきゅっと握り返した。
一方、見送った二人は。
「…立花先輩に怒られるな」
「ま、あとで兵助におごらせればいいんじゃない。
怒られるとしても、雷蔵、一緒だ」
「…ほんと、怖いやつだよ、お前は」
つないだ手はそのまま、三郎と雷蔵は顔を見合わせて、笑いあった。
***
タカ丸はグロいのとかはいけるけど、びっくりするのに弱い。(現パロと同じ設定)
そして久々知はタカ丸に弱いといいなあという妄想でした。
立花先輩はとても愉快犯でいらっしゃいます。
たぶんバカッポーを逃がしたと聞いてもむしろGJ!からかうネタが増えた!と思うような人。
6年は4年をでろでろにかわいがって、5年をけらけら笑いながらかわいがっていればいいです。
なんというか、残念な感じの久々知と鉢屋で本当にすいませんでした。豆腐プレイ、自重…!(おまえがな)