浴衣×くくタカ+4・5年
日も沈もうとする酉の刻。
全体に薄紫が滲みだした空に、日暮の声がカナカナと響く。
どこか涼しげでものさびしさを感じるその音を聞きながらも、夏真っ盛りの暑さはどうしようもない。
兵助が溢れ流れた頬の汗を拭っていると、隣からぱたぱたという小さな音と弱い風が送られてきた。
 
 
「兵助くん、暑い?まとめてあげよっか」
「いやだ。女みたいだし」
「…女みたい?」
 
 
と、扇子であおぐ腕を止めて首をかしげるタカ丸の髪はいつもと異なり、獣の尻尾のように揺れることはない。
タカ丸が自分で結いまとめた金髪は、おとなしく頭の上に鎮座していた。
ふわふわと柔らかそうなそれは弱くなった日の光でちらちらと輝き、
それが妙に、落ちついた藍色の縦縞浴衣によく映えている。
タカ丸は頭上のお団子確認するように上向いて、
それに兵助が「見えないだろ」とからかうような口調で呟いたところに、見知った顔が現れた。
よく似た顔が2つと、タカ丸がいつか改造してやろうと目論むぼさぼさ髪だ。
 
 
「よー兵助、タカ丸さん」
縁側に座る2人を見つけ、八左ヱ門が笑って手を振った。
番傘の大きな柄が描かれた袖がつられてゆらゆら揺れる。
その声にようやく気付いたタカ丸は、3人の方を振り向いて、「こんばんわー」と手を振り返した。
 
 
「わ、三郎くんと雷蔵くん、浴衣おそろい?」
「いつのまにか2着用意してあってねぇ」
 
 
恥ずかしそうに微苦笑を浮かべる雷蔵の隣で、
衣装提供者の三郎は当たり前だとばかりの表情をしている。
どこまでも仲がいいなぁとタカ丸は笑い、兵助は呆れたように肩をすくめた。
 
 
「あ、タカ丸さんも祭りいくのか?」
「うん。でも4年のみんなとねー」
「へえ、兵助、ふられたの」
「うっさい三郎」
「みんなとは前から約束してたし、
兵助くんとはこの先いつだって行けるし、ねぇ」
 
 
揶揄する三郎に睨む兵助の間で、タカ丸が笑みを深くして言う。
どうも意味深な言葉だ。
その言葉に、三郎はにんまりと唇の端を釣り上げて「へぇ」と兵助を見やり、
先ほどまでその三郎を睨んでいた兵助の視線の矛先がタカ丸へと変更させたのは言うまでもない。
 
 
「お、もうそろそろ時間じゃないか?」
「ほんと。ほら、三郎もそうやってからかってないで行くよ。兵助も」
「雷蔵に言われたら仕様がないな。行くぞ」
「俺は後でいくから、先行ってて」
「いーたーいー!!髪はダメだって!お団子崩れるって!」
 
 
髪をわしづかみにして引っ張られ、せっかく結いあげた髪が見事に乱れる。
形のくずれたお団子を押さえながらタカ丸がじとりと兵助を睨むと兵助は自業自得だと言わんばかりにそっぽを向くが、
その頬にはこっそり赤みがさしていて、それが疾うに沈んだ夕陽のせいではないのがわかり、
タカ丸も同じくこっそり、小さく笑みをこぼした。
 
 
「…もう、俺も行くから」
「ん、いってらっしゃい。
 俺も綾ちゃんたちが待ってるから、いくよ」
 
 
兵助に少し遅れて立ち上がり、じゃあまたねと手をふってタカ丸は踵を返した。
兵助は横目でその後ろ姿を追う。
まだまだ逞しいには程遠い背中、細い首筋、こぼれおちた明るい金髪がふわりと揺れる汗ばんだ白いうなじ。
遠くから見て、もう少し条件を言うならば、あと少し背が低ければ。
(…やっぱり、女に見えなくも、ない)
 
 
「タカ丸」
「へっ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、タカ丸が平滝夜叉丸と綾部喜八郎の部屋に訪れると、
部屋の中にはそれぞれ浴衣を纏って、本を読む滝夜叉丸と三木ヱ門と、ひとりごろんと寝転がっている綾部がいた。
仰向けに寝転がった綾部に「遅い」と大きな目で睨まれて、タカ丸は申し訳なさそうにごめんねと謝った。
 
 
「あ、タカ丸さん、髪まとめてるんですか」
「そう、お団子。でもさっき崩れちゃって」
 
 
タカ丸はそう苦笑してから、見上げてくる3人の羨望の目線に気付く。
3人はいつものように長い髪をひとつに結ってはいるものの、まとめ上げてはいない。
タカ丸はうれしそうに目を細めた。
 
 
「…じゃあ、髪ゆってほしい人ー?」
「「「はぁい!」」」
懐から鋏と櫛を取り出して問いかけると、声を合わせて返事をする4年生がまるで1年生みたいで、
かっわいいなぁもう!とタカ丸は口元をほころばせた。
 
 
「じゃあ一番最初に手を挙げた三木ちゃんから!」
「はい!」
「三木ヱ門ずるいぞ!」
「何を言うか!タカ丸さんが選んだんだ!」
「タカ丸さん、私は?」
「綾ちゃんは手あげなかったから最後ー」
 
 
タカ丸の前に座って、滝夜叉丸と口論を始める三木ヱ門の髪を櫛で梳きながら答えると、
綾部はそれに不満そうに唇を尖らせて、寝転がったままタカ丸の浴衣の帯をひっぱった。
 
 
「だめー、順番だよ。すぐにしてあげるから」
 
 
言っていることが正しいというのは分かってはいるものの、
あのタカ丸の髪をまとめる指の動きを一度知っては、つい、欲してしまう。
柔らかい指遣いが自分や他の人のものとはまったく異なるのだ。
だから、ぐいぐいと帯をひっぱって催促すると、くすぐったそうな困ったような笑い声がして、
まとめたお団子からこぼれた金髪がうなじのところで舞うように揺れた。
 
 
「…げ」
「あ、そうだ、タカ丸さん。
 もう迷子になったりしないでくださいよ!」
「そうですよ!悪い虫なんてついたら大変なんですから!!」
「えー?それをいうならみんなの方でしょー」
「…ねぇ2人とも、その心配は必要なさそうだよ」
 
 
珍しく綾部が重々しいため息をついて言った言葉に、
滝夜叉丸と三木ヱ門は不思議そうに首をかしげ、
はっとしたタカ丸は思わず櫛を落としてうなじを押さえた。
 
 
「害虫が虫よけ対策ですか、へぇ…」
「あーうん、あはは、ごめんねぇ」
 
 
タカ丸は肩越しに綾部を向き、眉を寄せて呟く。
困ったような顔のその頬がほんのりと朱色に色づいていて、
苦笑というよりも照れ笑いというに近かった。
できればそのうれしそうな声と顔をやめてほしいと思ったのだが、
言っても治まりそうにないので、綾部は黙って目をそらした。
見つけてしまった、うなじに紅く残された痕の存在感が憎いったらありゃしない。
 
 
髪を下ろせば見えなくなるのに、タカ丸がへなっと笑って、
「じゃあみんなでお団子おそろいにしよっか」と誘ったものだから、
うれしそうに顔を輝かせる滝夜叉丸と三木ヱ門同様に、
綾部も拒むことができずに、こらえ切れない笑みをわずかにこぼした。
おそろい、というその響きがくすぐったくてうれしい。
けれど今日はタカ丸の後ろを絶対に歩くものかと決意して、綾部はしかと目を瞑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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夏パロリクエスト   浴衣×くくタカ+4・5年
ちょっと乱れて髪の落ちたお団子+うなじ=とてもエロスだと思います(真顔)
うちのタカくくタカではキスマーク程度では微エロとまでいかないかもですが、
はたして久々知がどこまで及んだかはご想像にお任せいたします。
私はキスマーク(虫よけ対策)だけじゃ済んでない可能性にもかけてみたい(黙ろうか)
というか、いただいた内容完全に消化できず、すみません!
虫背中に投入は以前に興奮のあまり予算会議の小話に書いてしまったので;;
でも、キャラがたくさん出てくるのは難しいですがとても楽しかったですw
綾部を筆頭に4年はタカ丸に懐いてアンチ久々知(とちょっと三郎)で「おそろい」って言葉に弱く、
5年は2人の(ちょっかいだしつつ)保護者だと思います^^
それにしてもうちの綾部は久々知に対してひ土井が過ぎると思います。ごめん。(久々知に私信
 
★さん、リクエストありがとうございました!