きゅぽっと小さな音とともに玉が沈んで、代わりに炭酸の泡がぶくぶくと浮かんだ。
透明のガラスびんがひやりと冷たくて、部屋の電気を照り返して眩しくきらめく。
しゅわしゅわ、泡が浮かんでは消え、浮かんでは消え。
俺はそれを見上げながら、その炭酸水を飲み込む。
レモン香料が鼻孔をくすぐるとともに、飲み込んだ水は喉を焦がしながら落ちて行った。
「ああー!兵助くんなんかひとりで飲んでるし!」
「うるさい」
タカ丸の叫び声にかた耳を塞ぎながらもう一口飲み込むと、
今の今まで近所の小さな納涼祭の戦利品をテーブルの上に並べていたタカ丸が、
ペットボトルを一本持って駆けてきて、俺の隣に腰を下ろした。
きゅっと音を鳴らして、タカ丸はそのペットボトルをあける。
「サイダー?」
「うん。なぁに?」
「夏っていったらラムネだろ普通」
そう言ってラムネのびんをゆらして中のラムネ玉を揺らすと、タカ丸がぱっと目を輝かせた。
揺れるラムネ玉を追いかける様が猫か、小さな子供みたいだ。
絶対こいつ、中のラムネ玉とろうとしてびん割るタイプだな。
「うわぁ!いいなぁそれいつの間に買ったの!?ずるい!」
「ずるい、ね。あと一本冷蔵庫にあるんだけど」
「ほんとに!?兵助くん、ありがと!!」
タカ丸はそううれしそうに言ったが、次いでサイダーをひとくち飲んだ。
ごくんと喉を震わせ、炭酸水を胃に収め、
「後で飲むね。サイダーあけちゃったし、飲まないと炭酸抜けちゃうから」
と、へなりと眉をさげて笑った。
「まぁ正直、ラムネもサイダーもそんなに変わらないだろうしな」
「え、そうなの」
「俺は変わんないと思うけど」
ラムネもサイダーも同じ炭酸水。
香料とか炭酸の強さとかは微妙に違えど、味にさほど大きな差はないだろう。
「…じゃあさあ、」
なにか思いついたようなタカ丸の声を聞きながら、
俺はひとくち、自分のサイダーを飲む。
カラカラとラムネ玉がくびれたびんの上の部分で転がり、
羨むようにそれを見つめていたタカ丸の視線が俺を向いた。
笑った目の力が強い。
タカ丸はペットボトルに口づけるように唇を寄せながら、囁いた。
「まざっちゃっても変な味、しないのかな」
一瞬弧を描いた唇がすばやくサイダーを含み、
片手でペットボトルを握り、利き手を俺の頬に手をのばして、
タカ丸はぐいっと顔を近づけてきた。
あ、やばい、だめだ。
口の中に含んでいる炭酸水を飲み込む前に、
タカ丸の指が俺の顎を引いて、むりやり唇をこじ開けやがった。
こぼれる。
そう思ったが、こぼれかけるラムネを押し返すように唇を唇で塞がれて、
代わりにラムネとサイダーがぐちゃぐちゃに混ざって流れ込んできた。
息苦しい。
押し返される水流に息ができない。
俺は、空いた片手でタカ丸の肩をぐっと掴んだ。
その瞬間、唇が震える。
わずかにできた合間からこぼれた炭酸水が唇からあふれ出てしまった。
それがラムネなのかサイダーなのかは分からない。
ただ、しびれるようなぬるい水が喉の奥へと落ちて行って、
むりやり飲みこまされたそれに、俺は思わず咳きこんだ。
「おまっ…、この馬鹿!死ね!」
「痛いって!兵助くん加減してくれないんだもん、こぼれちゃった」
反省の色皆無でそう笑ったタカ丸は、
頬にあてがっていた右手の指先で濡れた俺の唇を撫ぜた。
それがくすぐったくてじれったくて、いっそその指ごと噛んでやろかと思う。
「おいしかったね」
目を細めたタカ丸は口元を釣り上げ、微笑んで囁いた。
炭酸の泡みたいにさっさと消えてしまえばよかったものを、
こいつの声はどろりどろりと甘ったるく、砂糖水みたいにねっとりと耳の奥を侵す。
「…最悪」
「えー、なんで?」
決まってる。
悪いのはお前のサイダーだ。
ラムネにまざったサイダーがおかしなくらい甘かったから。
そのせいで、俺の唇は熱くなって、溶けだした。
「責任とれ、馬鹿野郎」
唇が溶けてでもないと、こんな科白言うもんか。
***
夏プロジェクト 炭酸水×タカくく
お題「きみのサイダーでくちびる溶けた」(アメジスト少年さま)
いや、久々知はいつも結構誘うセリフ言ってるような気もしますが、気持ちツン。
口うつしネタ2回目。くくタカやったらタカくくもね、みたいな思考回路をしています。
ガラスびんのラムネって結構レアな気もしますが、風流でいいなぁと思ったので…