(何故、こんなことに)
孫兵は繋がれた手を見やる。
自分のものよりずっと大きくてごつごつしていて、それで温かい。
握られたときに「じゅんこみたいだなー」と言われた自分の手が冷たいだけかもしれないが、
まるで逃がさぬように捕まえておかんとばかりにぎゅっと繋がれた手は、あまりに温かい。
「よーし、次はとうもろこし食うか!」
「あの、竹谷先輩、」
「お、林檎飴もあるぞ。孫兵、どっちがいい?」
見上げてなにか言ってやろうとした顔に、
にかっと盛大に笑みを向けられて問いかけられてしまうと、次の言葉が出てこない。
提灯に照らされて砂色の痛んだ髪がちかっと光って、それが眩しかった。
孫兵はそう思って、目線を俯ける。
「…どっちでもいいです」
「おー?どっちでもいいって言われるとどっちも買うしかねぇなー。
ったく、お前は俺を破産させるつもりか?」
「じゃなくて…、むしろどっちもいらないです」
そういう気分じゃないですからと不機嫌そうな声がして、
孫兵を見下げる八左ヱ門は苦笑をもらした。
俯く孫兵には気づかぬようにこっそりと。
まったく世話が焼ける可愛い後輩だ、と内心呟きながら、手を強く握る。
「食わんとでかくなれないぞー」
「僕は学年でも身長は高いほうですから、べつに、」
「いーや、身長だけじゃないさ。
お前は背はあるが細っこいから、筋肉をつけないとなあ」
八左ヱ門の言葉に孫兵はむっとして、
「説教はいいのでそれより、」と繋がれた手から逃げ出そうとした。
しかし、八左ヱ門の力のこめられた手から自分の手が抜けない。
「っ…!」
「なぁ?ほら、力負けしてる」
「先輩は!年上じゃないですか!僕よりも!」
笑う顔が憎くらしくて、抜け出せない体温が悔しい。
孫兵は空いたもう片方の手で八左ヱ門の指をほどこうとしたが、
八左ヱ門は笑って「両手はずるいぞ~」と言いながら平然としている。
(なにを!その指の1本を動かすことさえできないというのに!)
ななめ上から聞こえる楽しげな笑い声に、孫兵は眉をぐっと寄せ、
変わらず手をつないで隣を歩き続ける八左ヱ門を見上げて睨んだ。
「ようやくこっち向いたってのに、そう怖い顔をしてくれるなよ。
んじゃあ、そうだなあ、綿飴にするか?」
「だから!それよりも、早くじゅんこをさがしてください!」
「おっちゃん、綿飴ひとつー」
八左ヱ門は吠える孫兵の言葉になど耳を貸さず、
小銭とひきかえに渡された綿飴を笑って孫兵に押しつける。
眉間にしわを寄せて八左ヱ門を睨んでいた孫兵だが、
こうもにこにこと笑みを向けられてしまうと、自分ばかりが悪いことをしているようで。
「…ありがとう、ございます」
その笑みと綿飴を甘んじて受け入れると、わしわしと骨格からして大きな手に頭を撫でられる。
満足げな八左ヱ門から綿飴に目線を下げ、ゆっくり雲の形を成すそれにかぶりついた。
舌にざらつく甘さが気持ちを落ち着かせて言ってくれるのか、
ようやく今になって繋がれた手の温度がじんわり滲んできて、自分の体温まで上がっていくのを感じた。
「じゃあデートも終わりにして、そろそろじゅんこ探しに行くか」
八左ヱ門はそう言って笑うと、
あれだけ足掻いて離れようとしても解けなかったのに、
体温の名残だけを残して、いとも簡単に孫兵の手を解放した。
森のなかで脱走した虫たちを探し回ってるときだって、
2人でいればほとんどデートと同じようなものじゃあないだろうか。
そう口に出してしまいそうになったときに、ひとりきりになった手が妙に寂しいことに気づいてしまった。
首元だけじゃなくて手までが寂しいというのはやはり心もとなくて、
丸めこまれるのは多少癪ではあったけれど、「手、繋ぎましょう」と孫兵は小さく呟く。
差し出した手に一瞬顔を間抜けにしたその人は、
すぐさま夏の太陽のように目を細めたくなるくらいに笑った。
***
夏パロリクエスト 夏祭り×竹孫
初竹孫!なんか反抗期の息子とオトンみたいに…何故だ…
孫兵が先輩にも物怖じせずになんでもがっつん言うイメージのせいですかね(書いた奴のせいです)
くっついてるのかくっついてないのかすら微妙な気が…竹→→←孫っぽいですが、
じゅんこが行方不明で気が立ってるのもあって、普通の竹孫はそれなりに穏やかで甘い気がします…
竹孫は孫兵がたぶん好きになってることとかもなかなか気づかないし、気づいても自ら進もうとしないので、
ひとえに竹谷の理性と我慢強さと優しさと甘やかせ上手で成り立つものじゃないかなと思っております。
男前で苦労人な竹谷が大好きです!がんばってくれー!^^
初めてだったのですが、とても楽しく書かせていただきました!なんかすごく孫兵が好きになりましたw
Sさん、リクエストありがとうございました!