甘党ハロウィン

 

 
黒い髪に黒いマント。
色の白い肌と、新品の白いシャツ。
映えるなあと思わず見とれていると、不機嫌そうな視線をよこされた。
もっと楽しい顔しなきゃ、今日はお祭りだよ。
 
 
「似合うねぇ」
「…もういいんじゃないか、このコスプレ」
「だめだよー、まだハロウィンは終わってないでしょう」
 
 
ね、吸血鬼さん。
笑みを向けると彼は唇をとがらせた。
全校イベントで中等部のみんなにお菓子を配ってるときは普通だったくせに、
夜になるとさすがにコスプレに飽きてきたのか、
それとも二人きりの空間で着慣れない衣装を身につけているというのが落ち着かないのか、
さっきからご機嫌斜めの吸血鬼さんこと、兵助くん。
じとりと俺を、正確には俺の頭上の獣の耳を睨むように見つめている。
 
 
「だいたいお前、犬かよ」
「え、ちがうよ!狼男でしょ、どこからどう見ても!」
「…首輪もしてるし、犬みたい」
 
 
俺の首のレザーのチョーカーをくいっと引っ張って、
兵助くんはまじまじと俺の格好を見つめた。
茶色の耳が本物だったらきっとぴくぴく動いてるんだろうなあ。
んん、なんだかくすぐったい。
 
 
「当然。首輪は兵助くんのものって証だよ」
「…へー、ペット扱いでいいのか」
「ペットって、」
 
 
チョーカーを引っ張っていた指が俺の喉を撫でた。
犬だって言ってたくせに扱い方は猫みたい。
くすぐったくて身をよじると兵助くんは目を細める。
その顔は映画で見る獲物に目をつけたヴァンパイアさながら、楽しげだ。
でも、
 
 
「でもね、俺は狼だよ」
 
 
がおーっとつけ爪をつけた手を威嚇するように構えてみると、
兵助くんはいちいち細かいなあお前はと呆れたように笑った。
それからもういいだろ、とついに飽きてしまったのか、マントの紐に手を伸ばす。
でもだめだよ、まだハロウィンは終わってないってば。
兵助くんの手を長い尖った爪で傷つけないように、優しく両手で包みこむ。
 
 
「 Trick or Treat 」
 
 
にっと笑うと、兵助くんはしかめっ面になった。
いかにも「お前のほうが年上じゃねーか」って感じの顔。
そうなんだけどほら、兵助くんのが先輩じゃない。
まあね、っていうのは建前で欲しいものは欲しいってだけなんだけど。
 
 
「…伊助や三郎次に配ったお菓子の余りなら、」
「それもいいけど、でもさ、」
 
 
チョコレートもキャンディーもガムもクッキーも好きなんだけど、
兵助くんならもっといいものくれるでしょ。
俺がいっちばん欲しいもの。
 
 
「お菓子よりもずっと甘い悪戯を頂戴?」
 
 
そう言うと兵助くんは目を大きく見開いて顔を真っ赤にした。
そりゃもうジャック・オー・ランタンも真っ青ってくらい。
俺の尻尾が本物なら、きっと大きく揺れてるんだろうなあ。
だって目の前にいるのは怖くもなんともない魔物。
愛しいだけの吸血鬼のきみ。
 
 
「じゃないとその唇に悪戯しちゃうよ」
 
 
がおーっと狼らしく唇に噛みついたら、
その後「あげないなんて言ってない」と吸血鬼らしく首筋に吸い付かれた。
触れるキャンディーより赤い唇の体温とか、
外側だけはビターな言葉とか表情とか、
そういうのまとめて、甘党の俺には大好物。
 
 
 
甘い悪戯をもっと!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
***
ハッピーハロウィン!