*綾善というより、綾善前提、保健委員+綾です。
伊作先輩がほぼ出てこないという…不運です致し方ないorz
薬草を摘むために外へ出かけてみれば、
体育委員会のバレーボールにあたりかけるし、
会計委員会の匍匐前進にぶつかるし、
ドジな事務員と衝突して書類をばらまかれて結局拾うはめになるし。
とことん不運だ、と苛立たしげに呟いたのは左近だった。
左近は委員会活動が始まる前から疲れ切っている1年生たちにさっさとしろと声を荒らげ、
数馬は苦笑しながらずんずんと進んでいく後輩の後を追った。
1年生も2人に続く。
「それにしても…善法寺先輩は遅いですね…」
「授業で遅れてるのか、不運なことになっているのか…」
「後者な気がしますねー…」
なんせ6年間も保健委員になったような人だ。
誰よりもその不運の度合いは大きい。
どんな目にあってるんでしょうねぇと不運を前提に呟く伏木蔵に、
乱太郎も苦笑しながらいくつか例を思い浮かべてみる。
同級生や先生に頼まれごとでもしているか生物委員が逃がした動物に追いかけられているか、
それとも、
「落とし穴にでも落ちてたりし、」
「うわあ!」
左近は叫び声と共に何故か薄くなっていた地面を踏み、
そのまま真下へ、しかもとっさに数馬の制服を掴んで落ちていった。
左近に引きずり込まれ、数馬も悲鳴をあげながら穴に吸い込まれていったのだが、
1年生でも保健委員はやはり運が悪かった。
数馬が薬草を摘むためにもっていた大きなかごの取っ手の反対側を持っていた乱太郎と伏木蔵も、
例外なく、やはり、その大きく深い穴へと雪崩れ込んだ。
「…っお前ら!さっさと、退けーーー!」
「いたたた…乱太郎、伏木蔵、早く出て!」
「そう言われても伏木蔵が退いてくれないと…!」
「深くて手がとどきませーん」
下から左近、数馬、乱太郎、伏木蔵という順で重なり合っている。
一番下で押しつぶされている左近は苦しげな怒鳴り声で伏木蔵をせかすが、
穴は思った以上に深くて、伏木蔵の手は地上には届かない。
それでもなんとか手を伸ばしてみると、
こつん、と堅い、土とも人の手とも違う感触に指が触れた。
「あ……」
「おやまぁ、またきみたちかい」
顔を上げれば、冷たくも暖かくもない双眸と目があった。
光を帯びて深い藍に色づく揺蕩う髪の下で、
その目は睨むわけでもなく、ただじとりと見下げてきた。
伏木蔵の手に触れたのは彼の愛用の鋤だった。
持ち手の方を差し出されているので、これは掴まれということなのか。
迷いながらも伏木蔵が鋤の柄を握ってみると、ぐいんと勢いよく持ち上げられた。
さすが4年というべきか年中穴掘りばかりしているのか、その力は思った以上にたくましく、
次いで乱太郎も数馬も左近も同じようにその穴からひょいひょいと引き上げられる。
「目印はちゃんとあるのに、どうして落ちるのかね」
不思議でたまらない、という風に穴を掘った張本人は首を傾げた。
それにむっと眉を寄せて文句のひとつでも言おうとしたのは、
不幸続きでもとよりいらだっていた左近だったが、
「ぎゃあ!」と聞き慣れた悲鳴がしたものだから、開いた口から声はとっさに出なかった。
鋤を肩に担いだ穴掘り小僧は、その声に「アタリがかかったようだ」と呟く。
紫の制服と波打つ髪を翻し、のんびりと歩き出す。
呆れたように保健委員たちが息をつく。
これはもう委員長は今日の委員会には不参加だろう。
不幸ではないとはいえ、厄介な罠に掛かってしまったようだ。
土まみれになった制服をはたいていると、不意に「ああ」と声がした。
「早く立派な忍者におなりよ」
私とあの人の邪魔をしないようにね、と、
冷たくも暖かくも優しくも厳しくもない眼の端で4人を見やり、
捕らえた獲物に満足感の名残を残した唇で、
綾部喜八郎という男はわずかに微笑んだ。
(不意打ちだ、なんという、)
目の当たりにしてしまった保健委員達は思わず心臓を押さえる。
まさか、自由奔放で気分屋で理解しがたいあの男を、格好良いだなんて。
まさか、委員長が惚れたのも、分かるやも、なんて。
(不運…!)
***
4万お礼 綾善
綾善といっても伊作先輩がいないっていう…不運(それで納得させるな)
「保健は穴に落ちるのがよい」という格言めいたリクエストをいただいたので、
保健委員をそのまま穴に落としてみました。
でも綾部に流し目で先輩っぽい台詞を言って欲しかっただけです。
綾部の流し目とか死ねる気がします。ときめいて。
保健委員にとって綾部は嫌いではなんだけどちょっと迷惑かつ謎な人だといいなあと…
タイトルは恋愛云々でなくとも綾部に魅了されちゃうと大変そうだなあと思ってです。
綾←保健とかではないです一応!
リクエストありがとうございました!
投票してくださった方々ありががとうございました!