愛され男の依怙贔屓

 

 

 

 

「手ぇ出せ」
 
 
俺がそう言うと、タカ丸はきょとんとした後、馬鹿素直に両手を出した。
まずは右手だけをとってその手をまじまじと見つめてみた。
見なれたものだが、毎度思う。
タカ丸の手は綺麗だ。
 
 
「なぁに?」
 
 
色は白いし、その指は長いし細いから華奢で、女みたいだ。
でも骨格から美しいその手は確かに俺の手よりも大きくて、
綺麗な指には隠れて肉刺や傷があった。
触れたり触れられたりしてみると、
実はタカ丸の手は意外と剥けていたりささくれていたりして、荒れていると感じる。
シャンプーやドライヤーにさらし続けて酷使する仕事だからというのもあるけど、
それに加えてタカ丸は料理や洗い物までこなしてくれるのだから、当然だよな。
 
 
「どうしたの…ってそれ、ハンドクリーム?」
 
 
目を丸くしたタカ丸が俺を覗き込んできた。
いちいち聞くな、と言ってやりたいような、くすぐったいものがこみ上げる。
ちらりと目を合わせば、タカ丸はそれはもう、これ以上ないくらい浮かれていた。
嬉しそうに「ぬってくれるの?」と笑いかけられたから、
返事代わりに真新しいハンドクリームを自分の手にたっぷりとって、
逆の手でタカ丸の手を握ってやる。
 
 
「くすぐったい」
「うるさい」
 
 
クリームを掌から指の間、
長い指ひとつひとつの先の先までなじませ、
ひっくり返して手の甲にもまんべんなく塗りたくる。
冬になるといっそう手荒れがひどくなるけれど、
タカ丸の手はやはり綺麗で、俺はそれが好きだ。
多分、そんなに手にフェティシズムを感じているわけじゃないと思うが、
俺同様、タカ丸の手を綺麗だと感じる人間は多いと思う。
誰にでも優しく触れ、
誰にでも人懐っこく近寄る、綺麗な手。
誰だって好きになる。
 
 
(…もっと綺麗になったら、この手を好きになる人間は増えるだろうか)
 
 
ぼんやりと考えていると不意に、
「兵助くん」と柔らかな声で名前を呼ばれる。
顔を上げると、タカ丸はふにゃりと照れ笑いを浮かべて言った。
 
 
「ありがとう」
 
 
照れ笑いなんて向けられたって、目の当たりにしてしまったこっちのほうが何倍も照れる。
ああもう、どうしてこいつはこんなに馬鹿素直なのか。
人の科白を勝手にとるな。
言わなくてたって分かってるんだろうけど、たまには、言おうと思ってんのに。
 
 
「…左手、出して」
「はーい」
 
 
荒れた手をぎゅっと握りしめ、手にとったクリームをなじませ、
もう一度同じことをくりかえす。
 
 
俺は、好きなものが他の人間にも好かれて、
それに自慢気になったり理解者が増えたと喜ぶような性じゃない。
そんなふうに気楽でも器がでかいわけでもない俺が、
それでもこの手が綺麗で好きで慈しみたいと思うのは、
誰にだって好かれるその手が、お前が、
俺が特別好きなその手が、お前が、
俺だけを贔屓して扱うから。
 
 
クリームを塗り終えたしっとりとした手を握りしめると、
なめらかな手が心地よくて、
この心地を知っているのは俺だけだと思うと優越感もあるが、つい嬉しくなる。
 
 
長くて華奢な指が俺の指に絡んできた。
もっと他にも俺しかしらないタカ丸の手はあるけど、
妬けるくらい優しいのも見惚れるほど器用なのも時折意地が悪いのも、
全部ひっくるめて、ああもう、好きだと、思った。
 
 
「タカ丸、いつも、ありがと」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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11月22日   いい夫婦の日
ということなので、久々知にタカ丸を労ってもらおうと。
久々知は自分で思ってる以上に手フェチならいいなーと思いますw
これからも夫婦仲良くバカッポーでいて欲しいです大好き!