※壱万打御礼リクエストで書かせていただいた
「兵助くん!」
ふいに後から聞きなれた声がした。
あれ、ここは自分の部屋(帰ってきたのはちょっと久しぶりだけど)のはずだが。
兵助が振り返るとやっぱりあの金髪が玄関にたっていて、へらぁっと表情を緩ませた。
「どうした?っていうか鍵は?」
「開いてた。兵助くんが閉め忘れなんて珍しい」
そういってくすくす笑いながら、靴をそろえて部屋の中に入ってくる。
「あ、鍵閉めろよ」
「どうせ竹谷くん帰ってくるでしょ?」
「いいんだよ、なんか鍵してないと落ち着かないから」
何年か前にあの馬鹿三郎が勝手に部屋に忍び込んで部屋中にえげつない悪戯仕掛けやがってからというもの、
兵助は絶対に鍵を閉めることを心がけている。
学園の敷地内にある寮だから泥棒や空き巣の心配はないが、それよりもあの男の悪戯の方がおぞましい。
タカ丸は不思議そうにしていたが、ちゃんと鍵を閉めてから部屋に入ってきた。
「で、なに?」
「うん、えっと、べつになにもないんだけどね」
タカ丸は俯いてそういいながら、
「はいどうせないんでしょうから買ってきましたよ」と牛乳パックの入った袋を渡してきた。
兵助も八左ヱ門も牛乳を飲むからここの牛乳消費率は高い。
この部屋に戻ってくるのは5日ぶりくらいだから、
冷蔵庫は覗いていないけど大方1本も入ってないか賞味期限が切れているかのどちらかだろう。
しかし、今はそんなことはどうでもよくて、それよりなんで急にここに来たのかの疑問の方が重要だ。
タカ丸はスイッチを入れたばかりのコタツに足を突っ込んで、どうやらここに居座る気満々らしい。
「なんか用あるんじゃないのか?わざわざここまで来るくらいなら」
「ううん、ほんとになにもないんだよ」
もう一度問いかけても、答えは同じ。
なんだってわざわざここまで来たというのに、理由がないというのか。
はっちゃんが寂しがってるから今日は部屋に帰る、とメールをしておいたから、
何か用があって来たとしか考えられないのだけれど。
兵助は首をかしげてタカ丸の向かいに座った。
じぃっとタカ丸の目を見ていると、なあに?照れるなあーとからかうように言われた。
いちいち茶化すな馬鹿。
「で?」
「でって…ほんとになにもないよ。
ただ、」
そういったタカ丸はコタツの上に組んだ両腕の間に突っ伏して、(多分意識してない)上目遣いで兵助を見つめた。
…うわ、何?
「最近、一緒にいる時間長かったから、
ちょっとだけ……寂しいなあって、思っただけ」
タカ丸はそう言って顔を俯かせた。
顔は見えなくなってしまったけど、金髪の間からほんの少し見える耳が赤くて。
なにそれ、うわあ、不覚にも可愛いとか思ってしまった。
どうしたものか、これも惚れた弱みというものか。
「えっと、ほんとあの、こんなことで来ちゃってごめっ…ぅあ!」
タカ丸の言葉の最後が途切れたのは兵助が押し倒したからである。
猫みたいな目が驚いて丸く見開かれて、兵助を見上げた。
「へーすけくーん…?」
「なに?」
「いや、何じゃなくってさ…」
乱暴に肩をつかまれて床に倒されたものだから、ちょっとだけ背中が痛い。
まだここがタカ丸の部屋のように洋室じゃなくて和室で、下が畳だったからまだマシだったけれど。
そう言っている間にも、兵助はタカ丸の腰の上にまたがってきていて、さすがにタカ丸も声をあげた。
「わっちょっ…何急に!」
「なんか誘われてるような気がして」
「誘ってないよ!?」
そういわれてもそう思ってしまったものはしょうがない。
ぐっと顔を近づけると、タカ丸は条件反射で目を瞑ってしまった。
唇に柔らかい感触が一瞬触れて、すぐに離れる。
目を開けて見上げると、兵助は満足そうに口元に笑みを浮かばせていた。
「…へーすけくん、あのさあ」
「うん?」
「迫ってくれるのは嬉しいんだけど…」
タカ丸が話している間も、兵助は髪を撫でながら目の横に口付けてくる。
完全にスイッチが入っちゃてるところこういうのもなんだとは思ったのだけれど、
「ここどこか分かってます?」
その一言に兵助が服の下に伸ばしかけていた手がぴたりと止まる。
絶対ここ俺の部屋だと錯覚してたんだ、とタカ丸は少し呆れて息をつく。
「…ね?」
「…鍵は閉めてるだろ?」
「そりゃ閉めたけど…どうするの、竹谷くん帰ってきたら」
「じゃあ、はっちゃんが帰ってくるまで」
「そんなのっ」
どーせ無理でしょうが、と言いかけた唇を今度は乱暴に押し付けられる。
今度は触れるだけじゃなくて口の中に舌を侵入させてきた。
「んっ…」
ああもう、どうしよう。
ここで腕を回してしまえばきっと、さらに兵助を加速させることになる。
そうは分かっているのだけれど、
「っ…へぇすけく、ん…」
息継ぎの合間に漏れる声がとっくに甘ったるいことに気付き、
ああこれはもう流されてしまおうとタカ丸がその背中に腕を回しそうになった、
その時だった。
「おーい!兵助ー!鍵あけろー!」
「「!?」」
玄関のドアの向こうから聞こえてきた声に2人は顔を見合わせる。
瞬間顔を真っ赤にしたのは兵助だ。
「…ほらあ………」
「…だって仕方ないだろ」
「仕方ないじゃないよもぉー…」
兵助はため息をついてからタカ丸の上からおりる。
早く出ないと余計な詮索されることは分かっているんだけど、やっぱり名残惜しいっていうか勿体無い気分。
「はっちゃんの阿呆」
もうちょっとくらい後からくればいいのに。
そう思いながら立ち上がった兵助の手を、タカ丸がちょいと引いた。
振り返ると座りなおしたタカ丸が、小さく笑っている。
「ねえ、今夜、俺の部屋来るでしょ?」
「……まあね」
ほんの少し笑いあって、兵助は玄関に向かった。
顔が赤いかもしれないけれど仕方ない。
(はっちゃんには悪いけど、やっぱりもうしばらく帰りません)
***
でもあの2人までいたことは不測の事態でした by久々知兵助
これが空白の時間の(私的)真実です…
鍋やったあとこっそり2人で抜け出してタカ丸の部屋に帰れ!!
MeGuさん勝手に閑話まで作ってしまってすみません;;
こちらもまとめて捧げてしまいたい気分です(土下座)
久々知は急にスイッチはいって積極的になればいい。
そのきっかけは多分タカ丸の意図していないところだと思います。
久々知天然パワーフルに使って、多分「ムラッとしたから」の一言で行動する。
でも男になれば襲うけど基本はタカ丸がやりたいようにすればいいと思ってる…そんな妄想。